リミットオーバー | ナノ


自分の恋愛に関しての性格を一言で表わすなら、『学習能力が無い』だ。
学生時代、勉強は疎かにはしていなかったが、恋愛もそれと同時に忙しかったのを今でも覚えている。自慢ではないが、周りに比べてモテていた為、人並より多い経験値を持っていた。

でも、その経験値は私を全く成長させてはくれていない。

いえ、私がその経験値を活かして学ぼうとしなかったのかもしれない―――



「………」
「………」

レイはキースの姿に気づいてすぐに事態が判ったのか、その後はまるで関係ないと言った様子で、キースの横を通り抜けて立ち去った。
残されたのは、私とキースの二人だけ。キースは今だ驚いた様子で私を見ていた。私は、何を言って良いのか判らなくて立ち尽くしたまま。

この後の流れは、判っていた。そう、判っている。無駄に多い“経験値”が告げているのだ。この先を答えを。なのに、どうして、私はこんなにも怯えているのだろう。

「ファースト、これはその…いや、」

最初に声をかけたのはキースからだった。彼はまだ事態に収拾がついていないのか、言葉に迷いながらも私に懸命に話しかけようとしていた。

グルグルと視界が歪む。ガラガラと音を立てて崩れていく。

今まで色んな人と付き合って、終わり方はそれぞれだった。価値観が違ったり、どちらかに他に好きな人が出来たり、自然消滅したり、浮気されたり、浮気をしたり。

浮気がバレたのはこれで二回目で、前の“経験”があったからある程度の身構えが出来ると思っているのに、あの時感じたことの無い感覚が身体を巡っている。

――――限界だ。

「ほら!やっぱり、言った通りでしょ?私は最低女。貴方がいうような素敵な人じゃない」

これ以上は限界だ。もう、耐えきれない。
終わるなら、私から。彼の声からそれを告げられ、それに耐えるだけの気力は私には無い。

「これで判ったでしょ?こんな女、一時でも好きだって思って馬鹿だったって」
「ファースト!私はッ」
「何だか、前にも似た感じの会話したわね。でも、これで最後よ」

終わり方がそれぞれだったように、終わる時の感情もそれぞれだった。円満に、穏やかな気持ちで別れることもあれば、本当に嫌いになって別れることもあった。こっちがどんなに愛していても一方的に捨てられることもあった。

今の気持ちは一体どの感情に部類するのだろう。無駄に多い私の経験値は何と答えるだろう。

「さようなら。それから、ごめんなさい」

どれにも当てはまらない。こんな気持ちは初めてだったのかもしれない。
全力で走った訳でもないのに、心臓はとても早く脈を打ち、それと同時に誰かに握りしめられているかの様に苦しい。

「あと、一時でも私を愛してくれて有り難う」

キースが私の名前を呼び、駆けだした。私は話しながらも手をかけていたドアノブを開けて、素早く部屋の中へと入った。スムーズで早い行動に自分でも驚くくらいだった。扉が閉まる瞬間、キースの顔が見えた。

扉越しに聞こえるキースの声が私の名前を何度も呼ぶ。
私は扉を背にしてしゃがみ込み、キースの声が聞こえない様に両手で耳を力いっぱい塞いだ。心臓は痛いほど苦しい。涙は止まることを知らないかの様に流れ落ちた。


わたし、あなたが好きでした

(違う、今でも好きで、愛してる)



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