リミットオーバー | ナノ


あれからまたキースと会えない日が続いた。連絡も前に比べれば、少なくなった気がする。勝手に怒ったことに関しては謝ることが出来たには出来たけど、あの時はレイのことでいっぱいいっぱいだった。他人の所為にするなんて、本当最低だ。

企画も一段落ついていた。自由な時間が出来てきたのに、私はキースをデートに誘うこともなければ、連絡も出来ていない。会いたい気持は、凄くある。なのに、また最悪な事態になるのではと思うと、身体が動かなくなる。

キースは凄く優しい人だから、電話で謝った時も『私の方こそ、すまなかった』なんて謝って私のことを全く責めることなんてなかった。だから余計に不安になる。いつか、彼が本当に愛想を尽かされてしまったら、と。

「何か、凄く臆病になっている気がする…」

こうなると、とことん自分が情けなく感じてきた。
不安な気持ちが大きくなればなるほど、誰かに頼りたくなるのが私の性質だった。そして、それを判ってなのか偶然なのか、“あの男”から連絡がくる。

「………」

放っておくと暫くして、着信音は鳴り止んだ。途端、身体の緊張が解けて、深い溜息が出た。
どうして緊張するのか、どうして電話が鳴りやむのを見て安心するのか、自分の中で結論は出ていた。


だから余計に怖かった。







「あ、」
「!…やぁ」

数日振りに偶然会ったキースは相変わらずの姿だった。彼は愛犬と散歩中だったようで、リードに繋がれたジョンは私に目いっぱい尻尾を振っていた。
自分も、これだけ素直に感情を表現が出来れば、恋愛にこんなにも苦労することはなかったのかなと思う。

「……」
「……」

重たい沈黙。あれだけ普通に話せていた中だった筈なのに、今は全く声が発せない。会話をした思い出はあっても、どうやって話をしていたのか全然思い出せない。

「その服、良く似合っている。凄く素敵だ」
「え?あ、どう、も…」
「……」
「……」

「それじゃ、また」
「えぇ、さようなら」

意識し過ぎて、何を言って良いのか判らないまま結局その場で解散。本当は少しでも一緒が良いけど、この雰囲気がずっと続くだけであるなら、今のが良い選択なのかもしれない。

このまま、徐々に私達の関係は薄れてフェードアウトしていくのだろうか。胸の奥がチクリと痛んだ。けど、どうすることも出来なくて、悲しみだけが広まった。そして、それに抵抗したくて、無意識に後ろを振り返った。

「ッ!?」

既に数メートル離れた距離だったけど、確実にキースも私同様振り返ってこちらを見ているのが判った。
どうして、こちらを見ているのだろう。悲しいのを振り払う筈だったのに、余計心が締め付けられた。

この痛みをおさえるには、今すぐ彼のもとに駆け付けて抱き締めてもらえば良いのかもしれない。でも、私には今そんな勇気は無かった。


とおくで笑う君が切ない

(これが、私と貴方との距離)



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