リミットオーバー | ナノ


人生というのは、常に順調とは限らない。ついこの間まで、そうであったからといって、それが今日まで続くとは限らないのだ。

企画がスタートして一週間。念入りな準備を行ったおかげで、滑り出しは順調だった。
スタート初日のライブも無事成功。上層部からも評判が良いと上司からも言われた。このまま順調にいけば、初めての企画リーダーとして成功をあげれそうだと、確信出来た。

ただ、それと比例してこれまで以上に仕事に拘束される時間も増えた。電話やメールはそれなりにしてはいるけど、キースと会う日も、時間も減っていく一方だった。
だからこそ、お互いがフリーの時は、必ず会うようにした。依存しているとか、そう言う意味は無い。ただ、仕事がハードになればなるほど、プライベートでの憩いが必要になっただけ。

「これを依存って言うなら、私はかなり依存してることになるんだけど…」
「違うでしょ。別に彼がいないと何も出来ない〜とかじゃないでしょ?」

更衣室からミラの声が聞こえる。今日は彼女が今月控えている結婚式のドレスと、私を含むブライズメイドのドレス決め。

「どう?」
「最高に綺麗」

披露宴まで新郎には見せないとのことで、ドレスの打ち合わせは決まって私が付き添いになっている。

「ところで、ファーストのドレスだけど、これなんてどう?」
「確かにダッサイのとは言ったけど、その下品なピンクは止めて」







「どうしたの?」
「……」

久々のデート。それまでは凄く楽しくて、やっぱりこの人といる時が凄く幸せだと実感できた。
夜、夕食にでもと思った矢先だった。それまで、二人で何処で食事をしようか話していたのに、キースの表情が険しくなった。嫌な予感がした。その予感はきっと、当たる。今まで、キースがこうして私に申し訳ない表情をする時というのは、決まって“あの時”なのだ。

「もしかして、“また”急用?」
「あぁ、すまない」
「…良いわ、行って。でも、何の用事なの?」
「それは、…」
「私には言えないこと?一体何なの?」

キースは何も言わない。どうして何も言ってくれないの?何も言わないなんて、ホント卑怯だ。私の心の奥にある黒くて、ドロドロしたモノが徐々に全体に広がっていく。

「我儘なんて言いたくない。迷惑だって判っているから。でも、いつもいつも“急用”の一言で片付けられて、私一人残されて、凄い馬鹿みたいじゃない…ッ」
「……」
「…ごめんなさい。遅れるといけないから、行って」

言って後悔した。謝ったところで、言った言葉が消えることが無いことは判っている。キースの顔が見れない。私の表情は今どんなだろう、キースの表情は?
暫くして聞こえてきたキースの「すまない」という言葉と、駆けて行く足音。

「(こんなつもりじゃないのに…)」

後悔するのは、決まって一人きりの時。
こうして一人佇んでいても、虚しさが広がるだけだから自宅へ帰ることにした。今日は一人ワインでも飲んで、不貞寝してやる。それくらいしか、今の私が出来ることなんてないんだから。

その時、携帯が鳴った。もしかしてと思って、慌ててバッグから取り出す。けど、表示されていた名前はキースじゃなかった。

「また、…」


変わっていく風景の中で後ろを振り向いたって 残っているのは灰色の塵だけなのだと、思い知った午後

(幸せになりたいって思っているくせに)(その幸せを壊すのは、いつだって私自身)



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