リミットオーバー | ナノ


「ファミリー君」
「はい」

世の中、仕事も恋も順調に進むなんてこと、不可能というか理想として存在するだけで、それを実現することなんて出来ないものだと思った。現に今まで、私はどちらかが良い時と言うのは、決まってもう片方は壁にぶつかっているのが殆どだった。

「企画の方は順調のようだね」
「はい、宣伝効果が特に良かったようです。自分で言うのも何ですが、この企画は成功出来ます」
「そうか。上もかなり高感触だと言っていたし、これからも頑張ってくれ」
 
ファースト・ファミリー。現在、恋も仕事も驚くほど順調です。
自然と笑みが零れ出る。それは親友のミラにもすぐ伝わった様で、彼女に現状を説明すれば、自分のことの様に喜び、私のことを祝福してくれた。友人関係でも、私は順調のようだ。

「で?どうなの?今夜は?」
「うん、食事へ。この間は、彼が急用で行けなかったから」

相変わらずキースは忙しい様で、時折キャンセルになることはあったけど、特に問題には感じてはいない。それくらいで、どうかなるような関係ではないのは判っている。この前の休みの日には、彼を家に招待して夕食を振る舞ったし。その時も、キースは前にデートを途中で抜け出したことのお詫びに、花束を持って来てくれた。お詫びなんて、全然いらないのに。私はキースと一緒にいれれば、それだけで幸せなのだから。

「ふーん」
「な、何よ?」
「私、ファーストのことはずっと見てきた。でも、ファーストがこんなに幸せそうにしている顔、初めて見た気がする」

♪〜♪〜

「ちょっとごめん、」

ポケットにしまっていた携帯が鳴って、取り出す。
昼休み中に電話なんて、会社から急用なのかと思ってディスプレイを見た―――

「出ないの?」
「え?あ、うん。非通知みたい」







時刻は十九時半。私は一人、レストランの前にいた。一時間程前、キースからメールで連絡が届いていた。

『すまない、少し遅れそうだ。先に入って待っていて欲しい。本当にすまない』

一人で入るのも恥ずかしいし、幸い予約しているとかではないので私は店の前でキースを待っていた。街頭テレビには、現在ビル火災で市民を救出しているヒーロー達の姿が映し出されている。キースが来るまでの気晴らしに、私はその様子を眺めていた。







「本当にすまない…!」
「気にしてないから、そんな謝らないで」
「しかし、!」
「ほーら!またそれ言う。気にしてないんだから、“しかし”じゃないの」

結局、キースが来たのは更に一時間後だった。レストランは既にラストオーダーの時間が過ぎていたから、キースを私の自宅へ招いての夕食になった(昨日買い物しておいて本当に良かった)。
食材を見ながら、何を作ろうか考えながら私がキッチンで準備をしていると、ソファに座っていたキースがいつの間にか隣にいた。

「手伝うよ」
「そんな大変なものを作る訳じゃないし、平気よ?」
「遅れたんだ、これくらいのことはさせて欲しい」
「判った。じゃあ、サラダ作るから手伝って」
「了解した。あ、それから―――」

「もう少し、私に甘えてくれても構わないんだが…。その、ファーストはいつも遠慮しているように見える」

はにかんだ笑顔で告げるキース。そんな風に思われているなんて、気づかなくて驚いた。

「大丈夫よ。私、遠慮とかしているつもりないし。でも、そうね…キースがもう少し甘えて良いって言うなら、」


笑う君が何よりも愛しくて

(いっぱい抱きしめて、キスして)(なんて言ったら、さすがに驚くかしら?)

(愛しい君が望むなら、)




Title/Back

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -