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「ファミリー君」 「はい」 世の中、仕事も恋も順調に進むなんてこと、不可能というか理想として存在するだけで、それを実現することなんて出来ないものだと思った。現に今まで、私はどちらかが良い時と言うのは、決まってもう片方は壁にぶつかっているのが殆どだった。 「企画の方は順調のようだね」 「はい、宣伝効果が特に良かったようです。自分で言うのも何ですが、この企画は成功出来ます」 「そうか。上もかなり高感触だと言っていたし、これからも頑張ってくれ」 ファースト・ファミリー。現在、恋も仕事も驚くほど順調です。 自然と笑みが零れ出る。それは親友のミラにもすぐ伝わった様で、彼女に現状を説明すれば、自分のことの様に喜び、私のことを祝福してくれた。友人関係でも、私は順調のようだ。 「で?どうなの?今夜は?」 「うん、食事へ。この間は、彼が急用で行けなかったから」 相変わらずキースは忙しい様で、時折キャンセルになることはあったけど、特に問題には感じてはいない。それくらいで、どうかなるような関係ではないのは判っている。この前の休みの日には、彼を家に招待して夕食を振る舞ったし。その時も、キースは前にデートを途中で抜け出したことのお詫びに、花束を持って来てくれた。お詫びなんて、全然いらないのに。私はキースと一緒にいれれば、それだけで幸せなのだから。 「ふーん」 「な、何よ?」 「私、ファーストのことはずっと見てきた。でも、ファーストがこんなに幸せそうにしている顔、初めて見た気がする」 ♪〜♪〜 「ちょっとごめん、」 ポケットにしまっていた携帯が鳴って、取り出す。 昼休み中に電話なんて、会社から急用なのかと思ってディスプレイを見た――― 「出ないの?」 「え?あ、うん。非通知みたい」 * 時刻は十九時半。私は一人、レストランの前にいた。一時間程前、キースからメールで連絡が届いていた。 『すまない、少し遅れそうだ。先に入って待っていて欲しい。本当にすまない』 一人で入るのも恥ずかしいし、幸い予約しているとかではないので私は店の前でキースを待っていた。街頭テレビには、現在ビル火災で市民を救出しているヒーロー達の姿が映し出されている。キースが来るまでの気晴らしに、私はその様子を眺めていた。 * 「本当にすまない…!」 「気にしてないから、そんな謝らないで」 「しかし、!」 「ほーら!またそれ言う。気にしてないんだから、“しかし”じゃないの」 結局、キースが来たのは更に一時間後だった。レストランは既にラストオーダーの時間が過ぎていたから、キースを私の自宅へ招いての夕食になった(昨日買い物しておいて本当に良かった)。 食材を見ながら、何を作ろうか考えながら私がキッチンで準備をしていると、ソファに座っていたキースがいつの間にか隣にいた。 「手伝うよ」 「そんな大変なものを作る訳じゃないし、平気よ?」 「遅れたんだ、これくらいのことはさせて欲しい」 「判った。じゃあ、サラダ作るから手伝って」 「了解した。あ、それから―――」 「もう少し、私に甘えてくれても構わないんだが…。その、ファーストはいつも遠慮しているように見える」 はにかんだ笑顔で告げるキース。そんな風に思われているなんて、気づかなくて驚いた。 「大丈夫よ。私、遠慮とかしているつもりないし。でも、そうね…キースがもう少し甘えて良いって言うなら、」 笑う君が何よりも愛しくて (いっぱい抱きしめて、キスして)(なんて言ったら、さすがに驚くかしら?) (愛しい君が望むなら、) Title/Back |