リミットオーバー | ナノ


目が覚めたのは、あの日と同じ早朝だった。
心地良い気だるさ、直に感じる肌の温もり、間近に見える端正な寝顔と規則正しい寝息。目許にかかった前髪をそっとかき上げると、瞼が微かに動き、ゆっくりと綺麗なブルーの瞳がその隙間から現れた。

「ファースト、?」
「ごめんなさい、起しちゃった?」

そう訊ねれば、キースは「いいや」と優しく私に微笑んで、私の額にキスをした。
私の身体に回されていたキースの腕の中からすり抜け、ベッドから起き上がる。傍にクシャクシャな状態で落ちていたシャツを拾い上げると簡単に羽織り、下着を手に取る。

不意に腕を掴まれて振り向くと、キースがこちらを見つめていた。起きた時とは違い、少し悲しそうで真剣な表情。

「何処へ?」
「シャワー借りようかなって?」
「!…そう、か」

私の言葉に、今度は安堵した表情。「どうしたの?」と訊ねれば、彼は少し恥ずかしそうに、それまで全く逸らすことの無かった視線を私から外した。

「初めて会ったあの日の朝、ファーストは何も告げずにここから出て行ってしまった」
「あ、…」
「あの時とは違うのは判っている。しかし、私は、」

続きを告げるよりも先に、私はキースの唇を自分ので塞いだ。それは一瞬で、触れる程度のものだったけど、キースが黙るには充分の効力があったらしい。「シャワー借りるわね?」私が告げれば、キースは簡単に返事をした。

「けど、変な感じね」
「何がだい?」
「昨日の夜、あんな風に私を抱いた人が今朝になって、…」
「!?、あ、そ、それは…!」

顔を真っ赤にしたキースを放っておいて、私はそのままシャワーを浴びに部屋を出た。
扉を閉めて、自分の顔を鏡で見た。赤くなっている頬を両手で押さえた。
キースが目覚めてから、ずっと心臓が激しく鳴っていた。誤魔化そうと必死に話していたのだけど、彼に気づかれていないか心配だった。

「(人並み程度の経験はしていた筈なんだけど…)」

「(こんな気持ちになったのは、―――)」

その日は、いつもより少し低い温度でシャワーを浴びた。







「ここまでで平気よ」

着替えを取りに自宅へ帰るとキースに告げたら、送ると言われた。断るのも悪い気がして、来てもらったものの相手も社会人なので、時間も考え途中までで帰って貰うことにした。

「気を使う必要はない。日が昇っているとはいえ、女性を早朝に一人なんて」
「有り難う。でも、気持ちだけで充分よ」
「、そうか。…なら、今夜食事にッ!」
「えぇ。よろこんで」

そう返事をすれば、キースは「なら、今夜連絡をする!今夜!」と必要以上に張り切っているようで、私はそれに苦笑した。
結局キースは私の姿が見えなくなるまで、私をその場で見送ってくれた。本当に、律義で優しい人だと思う。でも、それが彼の良さで、そんな所に私は惹かれたんだろう。

自宅に着いて、一息。出社の身支度と、朝食の準備。いつも起きる時間よりもまだ早いけど、二度寝するつもりもないので、キッチンでコーヒーを淹れることにした。
コーヒーを淹れながらふ、と部屋の中を見た。この数日、ここへ帰って来て楽しい気持ちになったことなんて全く無かった。でも、今は凄く楽しくて、嬉しくて。たった一日嬉しいことがあっただけで、数日分の悲しみは完全に消え去っていた。

「今日は、早めに退社しないと」

まだ朝の七時前だと言うのに、私の頭の中は今夜のデートでいっぱいだ。


そして大好きが続く

(今日、どんな服着て行こうかしら?)

(何処へ連れて行けば彼女は喜んでくれるだろうか?)(ブルーローズ君達にアドバイスを貰おう。それが良い、それが)




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