リミットオーバー | ナノ


『只今電話に出ることが出来ません。発信音の後にメッセージをどうぞ』

メッセージを残し電話を切った。こうしてメッセージを残すのはこれで何回目か判らない。

ファーストと全く連絡が取れなくなった。最後に会ったのは、一週間程前。それまで、ずっとお互い連絡を取り合っていたと言うのに、突然それが出来なくなってしまった。最後に会った時、ファーストの様子はどこかおかしかった。私が気づかない所で彼女を傷つけてしまったのだろうか。けど、私にはそれが判らない。そして、それを確認することも出来ない。

いつからだろう。彼女を、ファーストをこんなにも意識するようになったのは。
会社で偶然再会し、ファーストに告白したあの日。不純な関係から始まった、私と彼女の関係に本当に愛なんてあるのか自信は無かった。あの時、ファーストが私に言った言葉は半分は当たっていたんだと思う。

しかし、それでもファーストは私を受け入れてくれた。嬉しかった。何より、またファーストとこうして話し、あの笑顔が見れることが嬉しかった。ファーストと会う度にその気持ちは大きくなる一方だった。始めに感じた不安は、すぐに消えた。

私は、ファーストが好きなんだ。

ファーストと一緒にいるだけで、私は幸せだった。ただ、傍にいてくれるだけで幸せだった。
脳裏に浮かぶのは、辛く悲しそうな彼女の顔。私では、君のその表情を消すことは出来ないのだろうか…

会いたいのに、声を聞きたいのに、どうすればそれが叶うのか判らない。気づけば、ファーストと初めて会った公園へと足が進んでいた。
噴水前まで行くと、人影が見えた。夕暮れ時、人が疎らなその公園のベンチに、誰かが座っていた。自然と足がそこへと向かい速度を上げた。だから、その人物を確実にとらえた時本当に驚き、本当に嬉しかったんだ―――







「ファースト、どうして連絡をしてくれなかったんだ?」
「放して」
「私が何かしたなら謝ろう。だから、」
「キースは何も悪くないッ!なにも、…」

留守電のメッセージと同じ。彼の悲しそうな声が私の耳を通して頭の中に響いていく。
やめて、やめて。そんな辛そうな声で私の名前を呼ばないで、そんな悲しそうな目で私を見ないで、そんな震えながら私の腕を掴まないで。その全てが、私の心を苦しめる。

「私がいけないの。私が、」

止まりかけた涙が、また溢れ出した。声も震えている。

「私は最低な女。ただの友達のくせに、貴方が他の女の人と親しげに話をして嫉妬してしまう。それに、好きな人がいるって判っていて男を誘惑して、セックスもする酷い女」

きっと、今の私の表情は最悪に違いない。涙も零れ過ぎて、化粧も落ちかけているだろう。只でさえ、顔向け出来ないと言うのに、こんな状態では余計見せる訳にはいかない。出来る限り、私はキースから顔を逸らした。なのに、キースは両腕を使って私の肩を抱いて、自分と向き合わせた。でも、顔は見せれない。だから下を向いたままだった。

「それは違う」

頭上からキースの声が降ってくる。さっきまでと違って、穏やかで優しい声だった。キースの手が、私の肩を優しく撫でる。今の彼は一体どんな表情をしているのだろう。でも、私は顔を上げることが出来ない。

「ファースト、君は素敵な女性だよ。誰よりも優しく、誰よりも綺麗で、誰よりも繊細だ」

こんな時でも彼は私に優しい言葉をかけてくれる。本当に優しい人。
あぁ、もうこれだけで十分。これだけ彼に優しくして貰えて、凄く幸せな気分だった。今まで散々な恋愛ばかりだった私には、勿体無いくらいの幸せを今キースから貰えた。

これで、もう終わっても、私は何の後悔も残らない―――

「それに、私は君と友達の関係で終わらせるつもりはない」

え?今なん、て―――
キースの両手が肩から私の頬へと移り、そっと包み込む。そして俯かせていた私の顔を、自分の顔と向き合うように持ち上げた。初めて、目があった。綺麗なブルーの瞳が私を確かにとらえていた。キースの顔をこんなにも近くからしっかりと見るのは初めてだった。
端正な顔が私に優しく、愛おしく微笑む。キースの親指が零れ落ちる私の涙を優しく拭った。それま、まるで壊れ物を扱う様に優しく。

「あの日。私達が再会したあの日言った言葉を今、もう一度言わせてもらう」

キースの言葉、一つ一つが私の心の深くまで響いていく。そして確実に私の心拍数は上がっていく。

「君が好きだ、ファースト。愛している」

縮まっていく、キースと私の距離。あぁ、折角嬉しいことなのに、彼の顔はまた溢れ出した涙で霞んでまともに見えない。
でも、唇に感じる柔らかな感触は確かなもので、私はそこで漸く彼の身体に腕を回した。


好きな人にならせて

(君以外に、誰を愛せと言うんだ)



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