リミットオーバー | ナノ


キースと最後に会ってもうすぐ一週間。キースとはあれから連絡を取っていない。と言うよりも、私が一方的に彼の連絡を無視しているだけだ。打ち合わせで何度かポセイドンラインへ行くことはあったけど、連絡は勿論してないし、出入りの際は会わないように注意している(先日社員の人に怪しいと言わんばかりの目で見られたのは別の話)。

悪いのは自分。あの日、公園でキースが別の異性と親しげに話しているのを見て勝手に嫉妬して、勝手に怒って、勝手に帰った。
自分でも気づいていたけど、今までずっと気付いていないふりをしていた。でも、あの日。全てを確信してしまった。


私は、キースが好きなんだ。


不意にケータイが鳴った。画面に表示された名前に、私は表情を歪めた。
電話をとることはなく、再びテーブルの上に携帯を置くと暫くの間鳴っていた着信音は切れ、留守電へと繋がった。それからさらに暫くして、私は携帯をとった。画面には、留守電メッセージの表示。


『メッセージは一件です』

『ファースト、何度もすまない。私が何か君を傷つける様な事をしたなら謝る。本当にすまない。だから、連絡して欲しい。君の、ファーストの声が聞きたい。声が聞きたいんだ』


その言葉が余計に私の心を締め付けた。一方的に怒って、一方的に傷つけたのは私の方なのに、彼は私に謝る。今日も、昨日も、そしてきっと明日も。あの時、早くに謝ってしまえば良かったのかもしれない。でも、その勇気が私には無くて、気づけば何日も経ってしまっていた。

毎日送られる彼のメッセージ。その度に私の心を締め付け、その度に好きだって判って、その度に戻せなくなってしまったこの状況に泣いた。







仕事帰り、いつも通りに帰った筈だったのに、気づくと公園にいた。夕暮れ時とはいえ、今日は随分と人が居ない気がする。別に自宅方向だし、むしろここを通り抜けて行った方が近道になるから問題はない。けど、別の問題は、ある。

「…、」

噴水前ベンチで立ち止まる。誰も座っていないそこへ、静かに腰を下ろした。真ん中には座らず、少し端により。左側に人が座れる程度に座ったのは無意識だった。

思えば、ここが全ての始まりだったんだ。こんなところに、私がいつまでもいるから…
誰も座っていない左隣。そこに浮かぶのは、金髪で、少し天然だけど、優しい、好青年という言葉が似合うあの男。溢れだした涙が、頬を伝ったのが判った。

「……ファースト?」
「!?」

ついには幻聴が聞こえ始めたのかと思った。でも、それにしては随分とはっきりと聞こえたそれに、私は視線を左から前へ。見間違う筈なかった。キースだ。会いたくなくて、でも凄く会いたくて、大袈裟ではなく、本当に毎晩の様に思っていた人。

驚いて、声が出なかった。キースも驚いているようで、でもどこか安堵しているそんな表情で私を見つめていた。
色んな感情が溢れだしそうになった。すぐにでも、彼の広い腕の中に飛び込みたかった。でも、私はその感情を全て押し殺して、足早に立ち去ろうと彼の前を横切った。

「待ってくれ!」

キースと私の距離はそこそこあった筈なのに、いつの間にかその距離はなくなっていて、私の腕はキースに捕まった。
そう言えば、セックスした時は除いて、友達として付き合い始めて一度も彼に触れたことも、触れられたこともなかった気がする(些細なものはあったかもしれないけど)。こんな状況でも、私の頭には多少の冷静さがあるらしい。でも、それもいつ無くなるか判らなかった。


お願いです、神様。自害をなさってください

(一体、誰がこんなことを望んだと言うのだろう)



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