リミットオーバー | ナノ


とある日の、とある午後。場所は、シュテルンビルト内にある公園。ランチを済ませた私は、現在キースと二人そこにいた。
彼と出かけるのがこれで何回目かは判らない。頻繁に会っている私達を何も知らない人が見れば、恋人同士のデートだと思うかもしれない。でも違う。私達は“友達”なのだ。

キースから告白された時、私が“お友達で”とお願いしたのを彼は承諾した。以来、私と彼は友達のまま。てっきり、何回かデートをしてまた告白されるのかと思ったけど、彼は何も言ってこないままだった。別に、求めている訳じゃない。ただ、どうして言ってこないのか、そう最近思い始めた。

「少し、そこで休もうか?」
「えぇ」

キースが指したのは、公園に設置されたベンチだった。木陰が出来ているそこは、休むには丁度良さそうな場所だった。

「何か、飲み物を買ってくるよ」
「有り難う、じゃあコーヒーで」

彼は駆け足で行くのを私は眺めていた。別にそこまで喉も乾いている訳ではないのに、本当に真面目な人。つい、真面目過ぎるその性格に笑いが込み上がって来る。

“友達”になってから、キースの印象が随分変わった気がする。真面目な部分は前も変わっていないけど、あの時は気付かなかった彼の些細な優しさや、気遣いにも気付くようになった。彼の存在が私の中で変わって言っているのは確かだった。

「(でも、彼は―――)」







「(ずいぶん遅いけど、何処まで買いに行ったのかしら…?)」

キースが飲み物を買いに言ってから随分時間が経った。一向に来る気配の無い様子に、私はバッグから携帯を取り出した。彼は忙しい人で、よく急用で帰ることがあるからもしかしてと思ったけど、電話もメールも共に着信は無かった。
広い公園ではあるから、もしかして場所が判らなくなったとか?さすがに、それは無いと信じたいけど、とりあえず戻ってこないので、辺りを探してみることにした。

「いた!キー、ス…?」

キースは私が座っていたベンチから、さほど遠くない所にいた。声を出して呼ぶ途中で、彼が誰かと一緒にいるのが判った。あまりはっきりとは見えないけど、その人が女性だと言うことはすぐに判った。もっと言うと、服装や雰囲気から若い気がする。女性というより、少女と呼んだ方がどちらかと言えば相応しいような、そんな人。

「(知り合いかしら?随分親しい感じだけど…)」

何を話しているかまではこの距離からじゃ判らないけど、二人とも楽しそうに話しているのは判った。どうして私はこんなところでコソコソと様子を窺っているんだろう。話しかけるなり、ベンチへ戻るなりすれば良いのに。頭で判っていながらも、足はその場を離れることはないし、視線も逸らさなかった。







「すまない、待たせてしまって、すまない」
「…別に」
「しかし、あそこにいたなら声をかけてくれて良かったのに、何をしていたんだい?」
「…別に」

あの後、キースは私がいることに気づいて、傍にいた少女とは別れた。キース曰く、“友人の一人”らしい。大まかな括りで分ければ、私と同じ“お友達”ってこと。
同じ分類の人物だって言うのに、私と話している時とは違う雰囲気があった。親しいと言うか、本当に仲が良いと言うか、私とキースの中には無い何かが彼女との会話ではあった。

「そうだ、遅くなってしまったが、コーヒー」
「喉、乾いてないからいらない」
「そう、か…」

さっきからキースの顔がまともに見れない。でも、見えなくても判る。彼、今悲しい顔をした。声もそんな感じだし。
違う、私はこんな事が言いたかったんじゃない。でも、モヤモヤした何かが心の中にあって、それが私の口から冷たい言葉を出してしまう。

「…ごめんなさい、私調子が悪いから今日は帰るわ」
「!、なら家まで送って、」
「平気、平気だから。一人で帰らせて」

最低ね、私。


私だけに微笑んで

(何と愚かな考えか)



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