リミットオーバー | ナノ


「はぁー」
「ちょっと、二日連続」

昼休み、部署の違うミラとは必ずこの時間に会って話すことが最早日課になっていた。

「何かあったの?」
「…あった」

昨日の夜、ミラと別れた後一人でいつも通っているバーへ行ったこと。そこで、行きずり男(キース)に会ったこと。告白されたこと。包み隠さず話した。

「で、ファーストなんて言ったの?」
「いきなり付き合うのは無理って」
「…はぁ!?」
「だって!出会った経緯が経緯だし。相手も、多分本気じゃないと思うの」

ミラには本気じゃないなんて言ったけど、あの時話していたキースの目は冗談ではなかった気がした。
軽い気持ちだって判っていてもちょっと前の私なら、「OK」と答えたかもしれない。ただ、今までそうして知り合った男は碌でもない結果に終わった。特に今は恋愛に一喜一憂している場合でもない。どうしても慎重になる。

「でも不思議ね。前のあなたなら、そんなこと無かったんじゃない?」
「そうなのよ。判らない、彼相手だと今までの私が出てこないの」
「それって、ファースト。あなた、その彼に恋しているんじゃない?」
「え!?そ、そんな訳ッ」
「まぁ、でも断っちゃったんでしょ?仕方ないわね」
「それなんだけど、実は―――」







「はぁ…」

ここ最近、やたらと溜息が多い気がする。
窓の外を見れば、空が真っ赤に染まっていて、腕時計を見ると退社時間をとっくに過ぎていた。上司に許可を貰って、企画の最終調整を行っていた。でも、時間的にそろそろここを出ないと待ち合わせの時間に間に合わないかもしれない。

「あ、着替えのこと忘れてた…」

はぁ、とお馴染みの溜息。どうしよう、こんな地味なスーツ姿で良かったのだろうか。しかも、下パンツだし。せめてスリットスカートとかでも履いていれば良かったと思っても、時間は家まで戻る余裕はないと告げていた。

今夜はキースとレストランでディナーの約束の日。

数日前、キースの告白を受けて彼の申し出に対して出した私の返事は簡単に言ってしまえば、“お友達で”だった。
だから、今日のディナーも言ってみればデートだけど、恋人同士のそれとはちょっと違う。友達と夕食するなのだ。

なのに、何故こんなに緊張してるのか―――

「全く、ミラが余計なこと言うから…」

待ち合わせの公園に到着したのは、約束の五分前だった。キースはまだ来ていない。てっきり、約束十五分前には必ずいる!なんてイメージが何となくあっただけに、この状態は想定していなかった。でも、おかげで身嗜みを確認することも出来たし、いいか。化粧は会社を出る前に確認したし、問題ないわね?って、何でこんな気にしているのよこれは―――

その時突然、携帯が鳴った。ディスプレイを見ればキースだった。

「もしもし?」
『ファーストかい?』
「えぇ。あ、もしかして遅れそう?それなら構わないわよ、私…」
『すまない、急用が入ってしまって、今日のディナーへは行けそうにない。本当にすまない』
「……そう。別に気にしないで」
『この埋め合わせは必ずする!必ず埋め合わせを!』
「えぇ、期待してる。それじゃ、」

……何なのよッ!?


恋はバカみたい

(あ、『HERO TV』今日は生中継なんだ)

(最近頑張ってるわね、スカイハイ)




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