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「そう言えば、例の恋人とは会えたの?」 「それが、結局会えていないんだ」 「…そう、残念ね」 結局辿り着いたのは、一週間前訪れたバー。既に三杯目に突入した時に振った会話は、どうやら彼にとっては嬉しい話題ではなかったらしい。よっぽど好きだったのか、キースは判りやすいくらい肩をガックリと落とした。 「ねぇ、キース。こう考えてみない?貴方の出会った女性は、実は天使か、妖精か、もしかしたら女神様だったとか」 言いながら自分で、何を言い出したんだと笑えてきた。 話題を振った責任ってのもあるし、何より落ち込んだ状態で一緒にお酒なんて勘弁だから私は、必死に頭を回転させて(その結果がアレなんだけど)彼に話しかける。キースは俯いていた頭を上げて、私の突然の言葉に不思議そうに耳を傾けていた。 「その彼女って言うのは、貴方が落ち込んでいる時に現れたんでしょ?きっとそれが放っておけなくて、彼女は人の姿になって貴方を助けたのよ」 五歳の子供に聞かせるのであれば、とても素敵な話。けど、相手は私と年が変わらない大人。 話の途中で「何を言っているんだ?」って言われても可笑しくないのに、彼は私の話を止めることはしない。むしろ、真剣に聞いている。 「で、貴方は彼女のおかげで元の調子に戻った。彼女は役目を果たしたから貴方の前から姿を消した」 「………」 「な、なーんて。さすがにこれは、」 「ファースト」 突然名前を呼ぶから、キースの方を見れば真剣な目でこちらを見ていた。どうしよう、怒らせてしまったかしら?やっぱり、馬鹿にされたって感じたのか。慌てて私が謝ろうとしたら――― 「…そういうことだったんだ!」 「……は?」 「なるほど、そう言う事なら合点がいく」 「え?何?冗談?」 「何がだい?」 冗談ではないみたい。キースは「なるほど!」凄く納得している様子だ。そう言えば、この人一週間前もこうして飲んでいる時も多少(いや、むしろかなり)不思議な所あったし、そう言ったタイプなのかもしれない。 でも、これでとりあえずは彼の表情も戻ったみたいだし、結果として問題無い筈。時計を見れば良い頃合いだった。明日も朝から会議がある。 「もう、こんな時間ね。そろそろ帰りましょうか」 「え?…帰るのかい?」 「?えぇ。明日も仕事だし、これ以上…何かまだ話でもあるの?」 「!いや、…その、」 続きは出てこなかった。その代わりに、キースは恥ずかしそうにソワソワとし始めた。この様子、さっきも見かけたような… その答えはすぐに判った。 「私と貴方は、あの日偶然出会って、最終的にはそういう行為に至った」 「ファースト?」 「貴方の気持はなんとなく判る。好きな人が消えて、寂しいのよ。そんな時に私が現れたから、好きでもないのに求めようとする」 「前の私がそう。恋人にフラれて、目の前に貴方みたいな魅力的な人が出てきた。今の貴方は前の私と同じ。でも、貴方はそう言うことをする様な、軽い人ではない筈よ」 何度かキースが話に割り込もうとしたけど、その声も抑え込むように私は続け様に話した。ここで話に割り込ませたら絶対に駄目。 「帰りましょう」もう一度キースに促すけど、彼は座ったまま。 「私では、君に、」 「そうじゃない。今の貴方は、私でなくても目の前に魅力的な女性が現れて同じことをしていたって言っているの。でも、そうはなって欲しくない。きっと後悔する」 「違う!私はッ」 「やっぱり、会うべきではなかったわね」 どうすれば良いわけ? (言ったじゃない。私は酷い女だって)(純粋な貴方はまんまとひっかかってしまったのね) Title/Back |