「………」 「……どうしたの?ウェイバー」 「え?あ、何でもない」 「そう?ご飯出来たから」 眠い目を擦りながら寝室から出ると、鼻腔をくすぐる良い匂い。匂いを辿っていけば、そこはダイニングで、テーブルの上には見事なまでに綺麗に出来上がった朝食。「でも、その前に顔を洗った方が良さそうだね」と僕に言ってくるのは、この朝食を作ったであろう名前。 「あ、待って」 「?」 言われた通り、顔を洗いに行こうとしたら、名前に呼び止められた。僕とは違い、着替えも済んでいて、料理をする為にエプロンをした姿。 「おはよう、あなた」 「ッ!!」 満面の笑顔で言い放たれた言葉に、完全に意識は覚醒。けど、名前の言葉に意識させられた所為で火照った顔を冷ます為にも洗面所へ行った。 昨日、僕は名前と結婚した。つまり、僕たちは夫婦になった。 その前から名前と一緒に暮らしていたけど、今朝は夫婦として初めて迎えた朝。それまでと変わらない朝の筈なのに、まるで別のものの様に感じた。 「どう?」 「どうって、…」 「気づかない?」 「味変えたこと?それなら判ってるよ」 「ふーん」 名前の料理を食べるのは、これが初めてじゃない。もう何度も彼女の料理は食べているから、ちょっと味付けを変えたくらいじゃ新鮮さなんてそんなにない。 「こっちの味の方が、僕は好きだな」 「…!良かった」 今の会話も前に何度かしたことがある。名前は料理が好きだから、よく新しい料理を作ったり、味付けを変えたりなんて、しょっちゅうだ。その度に僕が言うコメントに反応する名前の姿も、結婚する前と何ら変わっていない筈なのに、凄く新鮮で初めて見るものの様だった。 「ふふっ」 「なんだよ、急に」 「うん。なんかね、こんな風にするの前からあった筈なのに、今朝は凄く新鮮に感じちゃって」 微かに頬を染めていう名前に、確かに心臓が高鳴った。 ここで、自分も同じ様に思っていた、なんて言えば、名前は喜ぶかもしれない。事実嬉しいことなのだが、それを言うことで恥ずかしさも生まれるのだろう。そう思ったら、言えなくて僕は名前にそっけない返事を返した。 「でも、ウェイバーもそう感じているでしょ?」 「はぁ!?…僕は、別に」 普段は鈍感なくせに、こう言う時ばかり勘が働くというか。それとも、これが夫婦の…いやいや、今僕凄い恥ずかしいこと考えていたな。 「気持ちの問題だろ?」 「じゃあ、ウェイバーは私と結婚して何も感じないってこと?」 「それは、…」 卑怯だ。名前もそれが判って言っている。 沈黙数秒。選択肢なんて、一つしかないことは判っているけど、素直にそれを選ぶことが出来る僕ではなかった。こういう時ばかりは、名前の様な素直さが羨ましく感じる。名前が僕の返事を聞くまで動かないことも判っている。だから僕は、名前が淹れてくれた紅茶を一口飲んで、心を落ち着かせた。 「…も、…と……る」 「え?」 「ッ!!…僕も、…名前と同じに…思って、る」 飲んだ紅茶以上に、僕の顔は熱くなっている。あぁ、朝から僕は何を言っているんだろう。恥ずかし過ぎる。でも、目の前の名前が想像以上に頬を赤らめて嬉しそうにしているのを見たら、それも多少和らいで。そう感じる僕は、完全に新婚ボケしているのだろう。 睦月さま 夫婦と言うか新婚さん。な感じなってしまいました。 ウェイバーは意識するとドギマギするから、なるべく意識しないよう努めていそうかなぁってイメージです。睦月さまのイメージはどうでしょうか? リクエスト有り難うございました! |