企画 | ナノ


「あ、もうこんな時間。そろそろ夕食の準備でもしますか」
「………」

読んでいたファッション誌を閉じて、名前はキッチンへ向かった。「今日は何にしようかなぁ」と冷蔵庫の前で首を傾げて、考える名前の後ろ姿を俺は見ていた。

主である名前は料理が上手だ。何度か振る舞ってもらったことがあるが、本当に美味い。

―――ところで、名前は料理を作るときエプロンは着ないのだが、俺としては是非ともエプロンを着てほしい。勿論、フリフリな感じのエプロンだ。

『お帰りなさい、ご飯にする?お風呂にする?それとも―――』

なんて、帰宅した俺を玄関で迎えて、上目使いで俺を見る名前。ヤバい、本気でヤバい…!
名前の料理は美味いし、作ってもらえるのは嬉しいが、やはり俺は名前を選ぼう。名前可愛いよ、名前。さすが俺のよm…マスター。

「お昼はパスタでしょ?昨日の夕食はハンバーグ。うーん…」

料理を振る舞ってもらって、「名前が作る料理は本当に美味いな。あなたは良い奥方になれる」と俺が何気なく言って、その言葉に名前が「な、何言っているの!馬鹿」って真っ赤になって、恥ずかしそうにしている姿を見ながら食事をしたい。

料理をしている最中に、誤って包丁で指を切ってしまう。俺はすかさず名前の手を取って、切ってしまった指を舐める。「な、なな何して…!!」って真っ赤になる名前に「消毒です」と一言。アワアワする名前、見てみたい。

「(そうだ、折角だ。今の内に呟きに…)」
「痛ったぁ…!」
「主!?」

俺の位置からは名前の後ろ姿しか見えないが、その発した声で名前に何かあったことは判る。俺は慌てて名前のいる台所へ向かうと、名前はジッとしたまま動かない。顔を俯かせている所為でその表情を窺うことも出来ない。

「主、どうされた?」
「え?あぁ、ちょっとね…」

俺が傍に来ていたことに気づいていなかったのか、名前は俺の声に少し驚いたように肩を動かしてこちらを見た。苦笑いで返事をする名前の手元を見ると、左手を庇うように右手が覆っていた。

「大したことじゃないの。考え事しながら包丁使っていた所為で、」

覆っていた右手を退かし、俺に左手―――正確には左手の人差し指を見せた。真っ赤な血が、先端から流れていた。


―――これは…


さっきまで考えていたことが一気にフラッシュバックして、俺の頭の中を駆け巡る。まさに先ほど俺が妄そ…考えていたことの再現ではないか!

主が怪我をしていることを心配するべきだが、今はそれどころではなく、俺は名前の左人差し指に視線と集中を一気に向けた。「ホント、最悪…」小さな声で名前が呟くのが聞こえた。待っていてくれ名前、今すぐ俺が貴女の指を消毒して―――

「あ、主!指を…!」
「あ、うん。ごめん、いつまでも見せられたら気分悪いよね」

俺が名前の左手を取るよりも前に、名前は再び自分の右手で左手を覆った。そして、瞳を瞑ると囁く様に唇を微かに動かした。間を置かずに、名前の手元が淡く光を帯びたかと思えばそれはすぐに止んだ。

「刃物を使う時は気を付けないとね」

ニコリと笑って見せた左手の人差し指には、まるで初めから無かったかの様に傷口は無くなっていた。名前が優秀な魔術師と言うのをこの時ばかりは、(若干だが)恨めしく思った。


どこから後悔したらいい?

(早く行動に移さなかったところか、主が優秀なところからか、)(そもそも主が可愛過ぎるのが…)

(しかし、主の可愛さは正義だ!)





しおんさま
ツィートではなく日常であの残念さを出すとどうなるのかと思いましたが、何とかなったのかな…?しかし、これが日常だとしたら本当に酷い!(笑)
リクエスト有り難うございました!



Back

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -