「まったく!あの男は一体何なのですか!」 「まぁまぁ、セイバー落ち着いて」 と、宥めたところでセイバーの機嫌がすぐに直る訳がないのは判っている。私は目の前にいるセイバーに気づかれない様、心の中で溜息を吐いた。 「切嗣さんが口を利いてくれないのは、今に始まったことじゃないでしょ?」 「ですが、名前!これではマスターとサーヴァントとの疎通が全く…」 セイバーと切嗣さんが口を利いたことはない。もっとも、それは切嗣さんの考えあっての行動なのだけど。けど、目の前の騎士王は、どうしても納得いかない様だった。 私はセイバーが入ってきた扉の方を見た。多分、この扉の向こう側、しかもそんなに遠くない距離に切嗣さんはいるんだろう。 「名前は切嗣のことをどう思うのですか?」 「私?私は嫌いじゃないよ?」 私は別に切嗣さんに無視をされることもないし、意見の交換も出来ている。それだけでなく、アイリさんの世話係である私に、わざわざ差し入れまでくれるという気遣いまでして貰っている。 セイバーには悪い気もするけど、素直に言えば案の定。セイバーはショックを受けた様で、口を開けたまま動かなくなってしまった(心成しか、アホ毛もいつもより垂れ下がっている気がする)。 「…ま、まぁ、セイバーの気持ちも判らないくないよ?やっぱ無視とかってショックだもんね」 「!…そうです!」 さっきまでの落ち込みは何処へやら。私の両手を、自分の両手で包んでセイバーは私を見つめた。 「―――と、言う訳です」 「そうか」 所変わって、廊下。切嗣さんは案の定、私がさっきまでセイバーと一緒にいた部屋を出て、すぐの廊下の窓の前にいた。あれだけ期待の眼差しで見つめられてしまっては、いくらこれが無駄だと判っていても、言わざるを得ないってもの。 「名前、僕の考えは前に言ったよね」 「はい。でも、少しくらいダメですか?せめて、相槌くらいとか…」 切嗣さんは返事をしないまま窓を見ていた。うん、まぁ、こうなることは予想していたから仕方の無いことで、私も切嗣さんに倣って窓を見た。あぁ、今日は満月だったんだ。 「名前は、セイバーが可哀そうだと思うのかい?」 「うーん…まぁ、無視をされるって点だけで見れば。私がもし、切嗣さんに同じことされたらやっぱり嫌だし」 「僕は名前を無視するようなことは絶対ありえないよ」 それは大変有り難いことですが、その優しさを少しだけセイバーに分けてあげて。なんて、言える訳も無く。 ごめんね、セイバー。私はセイバーのこと好きだからどうにかしてあげたいんだけど、セイバーと同じくらい好きな切嗣さんの考えを捻じ曲げることは出来ませんでした。 「困ったなぁ」 「名前は、一体どちらの味方なんだい?」 思いもよらない質問に、一瞬フリーズ。視線を窓から切嗣さんに向けると、思いのほか真剣そうな眼差しでこっちを見ている。返答に困ったけど、目の前の人を贔屓したり、無視されっぱなしの騎士王を贔屓するよりは、ここは素直に答えるべきだと思った。 「私の一番は、アイリさんですよ」 切嗣さんの質問に返答すれば、切嗣さんは私を見たまま黙ってた。私が切嗣さんの味方をしなかった所為で、ショックを受けた様子もない。むしろ、私の答えに納得したようで、私の肩に手を置いて小さく(本当に判らないくらい小さく)笑った。 八百長フェアプレー りこさま 切嗣or剣陣営と言うことでしたので、剣陣営で書かせていただきました。と言っても、マスターとサーヴァントだけですが… とても楽しく書かせて頂きました。リクエスト有り難うございました! |