めも:悪い夢
滴がシンクに落ちる音が、いやに部屋に響く。
「大丈夫」
発せられた声は現実味もなく、ただ空気を震わせたような錯覚を生み出した。
言葉に責任など無い。そこに力を抱かせようとする、浅はかなこと。
その無責任に心を許すなどという愚。
落ちる滴の弾ける音。
単調で乱れることなく、不変であることに若干の安堵を覚える。
言葉に力など無い。
そう信じてやまないのに、言葉を唇の中から取り出すことをこんなにも躊躇するのは何故だろう。
滴が流れ、伝い、落ち、音も無く消える。まるで最初からなかったかのように。
言葉に力など。
私に、力など…
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喜びを知った者の悲しみ。
一度与えられたからこそ、愛することをやめることができない。
150629
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