自惚れ
守りたい、貴方を。
「………少し、放っておいてくれ」
たっぷりの沈黙の後に現れたその言葉は、彼の今の感情を押し殺して絞り出された言葉なのだろう。暗闇を向いたまま、ロイは扉の先に行ってしまった。
「……」
明らかな、拒絶。
…目と目が合わない。でも、すれ違いざまに暗い色をしたその目が見えた。見えてしまった。彼が隠そうとしているものを、見てしまった。
彼の悲しみを、
「……」
(わたしは)
自惚れていた。私ならロイを幸せに出来ると。ロイを笑顔にしてみせると。
…幸せではなく、笑顔ではないロイを見た時、私は彼に何も出来なかった。優しい言葉をかけることも出来ず、ただただ彼の、悲しみの色が深くなっていくのを見ているだけ。
「…ロイ…」
震える吐息と共に出ていく彼の名前。
何も言えなかった口の代わりに、今更になって涙がぼろぼろと溢れだす。
音も無く服に染みを作っていく私の涙は、これはどうして、なんのために流れているのだろう。
何も出来なかった私への無力感。自惚れからの無力感。…程なくそこに行き着く答えに、自分はつくづく最低な女だと、涙は更に零れて落ちる。
温かさが失われて、落ちて、黒く滲んで跡を残す。
…私にはどうしようもないのだろうか。
本当に…
…私に悲しみを向けてくれなかったロイの優しさ。
本当なら私に当たり散らす事だって出来たはずだ。私に言ってもどうしようもないことだったのかもしれないけれど、そんなことはどうでもいい。私にとっては、そういうことなんだ…!
『ロイは私のために、』
…こうなったら自惚れてやる。とことん、都合のいいように思っててやる…!
涙を止めようと思ってもそうそう止まるもんじゃない。だったらもう、流れっぱなしでいい。
『私はロイのために、』
「なん、だ」
「……」
ロイが腰かけてるベッドの、その隣にどっかり座る。
いきなり部屋に入ってきた私に少し面食らったようなロイ。あ、目が、合った。
けど、すぐまた、さっきの悲しい色を目に映す。
「なんだよ」
「……」
「…放っておいてくれって言ったよな」
少し、ロイの声に凄みが入る。
「……」
「…寝て」
「……」
「寝てって、言ってる」
何か言おうと口を開くロイの、その前に言ってやる。
「私があなたを、守るから」
その時、ロイがぽかーんと口を開けたまま無表情に移り変わったのが面白かった。
でも私は、至って真面目だ。真剣だ。
力の抜けたロイの体を半ば覆いかぶさるように力を込めてベッドに押し付ける。
「…寝て起きると、朝が来るよ」
「……」
「それまで私が、ロイを守る」
いいように寝転ばされたロイが身動きしないのをいいことにさっさと布団をかけ、私はベッドの側に座り込んでロイの手を探る。
「守る」
繋がれて出てきたロイの手の甲に、私の額をそっと寄せる。そして願う。
「あなたの全てを、私が守る」
(あなたを悲しませたくない)
(あなたには笑っていてほしい)
(私にはそれが、出来る)
自惚れに、あなたのことを想う。
あなたが幸せそうに笑っていられる明日に、私がいることを信じて。
- - -
ロイを幸せにしたい したい したい たい たい…(エコー)
とひたすら思っていたらなんだかおセンチになっちゃってしにそうになったのでおセンチガリゴリしてみた。
しっかし…ロイがほんと、好きです…マジで(今更)
好きあってるんならこのくらい自惚れてる人でもいいと思うんですよ!ね!?謎主張!!
意図したつもりはないですが、なんか一つ前のマルスのとちょっとかぶっちゃった。夜を越える二人、という所が。
141113
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