アンカレッジ


「……」
「な、メシ何にする?」
「…いらない」
「いらないじゃないだろ。ええっと、冷蔵庫にはなにが…」
「私は食欲ないからいらない。ロイは勝手に食べといて。財布、テーブルに上がったまんまになってるから、好きに使っていいよ」
「…フィオ?」
「はあぁ… ……」
「フィオ、どうかしたのか? 調子悪いのか?」
「どこも悪くなんかないっ!!」
「!?」
「…あ、ごめん。ごめんね。ちょっとイライラしてるんだ。ごめんね…」
「…、フィオ…」
「当たり散らしたくないから、私のことは少しの間ほっといて…」
「……」
「…寝るね。おやすみ」
「…おやすみ…」

- - -

「フィオ、起きて」
「…ん……」
「フィオのごはんあるよ。さあ起きて」
「…ごはん……」
「今起きないと夜眠れなくなるぞ。起きて起きて!」
「うん、起きる…から…」
「早く起きろ〜 今日のごはんは俺の自信作だぞ!」
「ごはん…」
「だから食べないなんて言うなよ!せっかく一生懸命作ったのに!」
「…ん、卵のにおい…? 卵なんて…家にあったっけ…」
「フィオが寝てる間に買ってきたんだよ。アンタ言っただろ、財布の中身は好きにしていいって」
「言ったけど、さぁ… それはロイが自分で食べるものを買ってくるためにっていう… 私の分はいらないって、言ったよね…?」
「そんなことはいいから! …じゃ〜んっ!見て見て、俺の作ったオムライス!」
「……、おむ、ライス…?」
「ちょっと不格好だけども、味はきっとおいしいぞ!多分!」
「……」
「さ、座って」
「うん…」
「あ、ケチャップかけたげるな」
「うん…」
「ロイ様の超力作ケチャップアート、とくと見ろよ〜!」
「……」
「…あっ、ケチャップが…」
「ケチャップが…切れたね…」
「…す、スプーンでケチャップ伸ばして…」
「……」
「…っふー!完成!完成だぞフィオ!」
「……………カービィ?」
「正解!よく分かったな!」
「ホントだね。丸くない…し…」
「…ああ、丸くないカービィなんだよ、これは。ウン」
「フフッ…」
「…よし! 見た目も楽しんだところでロイ様のオムライスをご賞味してみよう!」
「うん、うん」
「あのな、たまねぎがいっぱいあったからいっぱい切り刻んで入れたんだ。あとな、にんじんと、グリンピースも入れて、鶏肉もタイムセールの一番やっすい奴選んで買ってきたし、コーヒーフレッシュってやつを卵に入れるといい感じになるって書いてあったからそれも買ってみたりしてさ…」
「……」
「卵がさぁ〜、とろとろでふわふわの卵を作りたかったんだけどこれが結構難しくてさ〜…」
「……」
「あ、フィオ、聞いてる?」
「……っ、ううっ…」
「…!? え、う、へっ!? だい、だいじょぶか? ごめんっオムライスはじめてで…ぶっつけ本番で作ったからまずかったかもしれない!」
「…ちがう」
「え!? あ、そう、そうだよな。はじめてじゃなくてもきっと上手に作れないよな!俺、とろふわのオムライスを作ったらフィオが喜んでくれるかなって、でも上手く作れなくて…オムライスって案外奥が深くて… でもいつかはフィオがおいしいって言ってくれるような、とろとろでふわふわのオムライスを作れるように練習するから!だから、そのっ…」
「ち、ちがう、ってば」
「…ごめ、ん…」
「なんで、ロイがあやまる、のさ」
「……」
「おいしいよ。オムライス」
「……へ?」
「おいしいよ。とっても、おいしい、よ…っ!」
「フィオ…」
「…ろ、ロイ、ほんとに、おいしいよ。わたし、うれしいよ。しあわせ、だよ」
「……」
「…おいしい」
「…そっか、それなら、よかった。フィオが喜んでくれたなら、俺も苦労して作った甲斐があるよ」
「泣けるほど、おいしい…」
「そっか…」
「…ちょっと、元気になった、かな」
「そっか」
「…ごめんね、ロイ」
「ん? 何に対してゴメンなんだ?」
「…心配してくれてたのに、ロイのその気持ち、いらないって言って、ごめんね」
「…そんなことかよ。別にいいんだ! 俺はいっつもいらないいらないって言われ続けてもう慣れてるから!」
「……」
「それよりもフィオ、イライラモヤモヤした時にはちゃんと吐き出さないとダメだ。溜め込んでると顔の不機嫌度が普段の5割増しに見えるし、お肌も荒れるぞ」
「……」
「…な、なんだよその顔は」
「…ロイって、女の子なぐさめるの向いてないんじゃないかなって、少し心配になった…」
「な、なんだよそれっ。…どーせ俺はそういうの下手くそですよ」
「ロイ」
「…なに」
「ありがと」
「…おう。気にするな」
「ロイ」
「なに」
「……」
「な、なんだよ…」
「ロイの分のオムライス、冷めるよ」
「あっ! …あ、いいの。俺のはいいの」
「よくない。だって私オムライスお代わりしたいから、それ貰う気満々だし」
「え? …ええっ?」
「ッハーーー!!!! …イライラしてたのスッキリしたらおなかペコペコになっちゃった! ねっロイ、ソレくれないなら早速オムライスの練習だよ! 私のお代わりのオムライスをちゃちゃっと作ってちょーだいっ」
「……ま、いっか。…じゃあ次こそフィオのためにとろふわオムライス作ってみせるぞー!」
「ありがと!ロイさまだいすきー! じゃあ出来あがるの待ってる間にロイさまの分のこのぬるくなったオムライスをいただくとしますか〜!」
「えっちょっと待ってそんなにおなかすいてるの?フィオって大食いキャラだったっけ?」
「乙女は涙を流すのにエネルギーを超消費するのっ! でもおかげですんごいスッキリ! んあー!こっちのオムライスもうまー!ロイの愛情の味がするー!」
「言ってろ…」
「あう…ホントにおいしすぎて自然と涙が出てくるぅぅ…!…おいしぃーッ!!」
「…泣きながら笑いながらオムライスを貪り食う、こんな乙女がいてたまるか…」


- - -
心情や精神的な条件などが重なってそう感じることもありますが、食べ物を食べる時にやたら泣きそうになることってありませんかね?
「お、おいひい…;ω;」「コレはなんておいしいんだぁああああアアアウオオオオオオオ!!!!!」「…ゲロマズ;;;ω;;;」等々。
私は最近、妹が普段そんなことしたためしがないのに「…お姉ちゃんと一緒に食べようと思って買ってきたんだ。はんぶんこしよ。お姉ちゃん先に1コめ食べていいよ。ハイ」ってアイスのpino(いちご味)を渡してくれた時にちょっとウルっときました…;ω;

ここんとこふさぎがちだった私情のアレコレをネタにして書きだしたハズなんですが最終的にはとろふわオムライスが食いてぇ!!!!っていう叫びになってしまった。あ、あれぇ…?
『怒ってイライラする』→『怒りを鎮めたまえ』→『錨を沈める』→『投錨(錨を下ろす)』→『アンカレッジ(投錨地)』っていう感じです。>タイトル
アンガー(怒り)にかけても面白かったかな。中身がそこまで伴なってませんが……
…食べ物はなんでも半熟派なので、オムライスも半熟派ですよ。しらんがな。
140617
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