55.そんなの、わかってた




しょうがない。
だって、仕方がないことだから。

何度も何度も自分に言い聞かせた言葉のおかげで、白くくすんだ頬に軽く笑みを乗せることくらいはどうにかこなせた。

彼の最後の笑顔。
篝火の仄明かりに照らされたそれはとても眩しくて、神々しくすらあって、ついさっきまで過剰に意識していた現実味すら失う程に…暖かかった。
だから尚更、夢なんじゃないかって……


「みんなに言えないような悩みでも出来た?…俺くらいには言ってくれよ。その、長い付き合い、だし…」
「今のアンタ、どっか違う方見てるだろ。アンタは考え事するとき、相手を透かすんだよな」
「嘘でも妄想でもいいから、話してくれ」


馬鹿だ、馬鹿な子。どうしてお前はそんなに図々しいの? 優しい彼の言葉たちが入り込まないように、心の中で意味を成さない罵倒をひたすら繰り返すものの、それでも染み出してくる温かさが頭に靄をかけていく。

分からなくなってゆく、彼への感情。



じゃれあうように抱きしめればこの気持ちも少しは満たされるのだろう。いつものように馬鹿をやってからかいあって、たまには弱い姿をさらけ出したりして、
それがこれまでの私が求めていた“情”。
でも、今の私はそれだけじゃ満足できない。少しも満たされない。全然足りない。
いっそ全てがなかったことになれば…と思う程、私の心は荒んでしまっていた。
自身の醜い感情と彼から与えられるものとが、勝手にせめぎあって、暴れる。汚いなぁとどこか傍観者視点で実況してみては、経過を楽しんでいるように再び投げ出す。

既に私は、諦めている。





「朝飯ちゃんと食いに来いよ」
「おやすみ、また明日」


もうどうでもいい。
そんなの、分かってた。

なのにどうして、私は必死に嗚咽を殺すのだろう。
そんなの、
そんなの、





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愛が怖いフィオさん
勢いだけが走る…orz

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131209
(110623)
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