みつき先輩が学園にやってきたというのに
俺は驚かされた。まさか、あの人が数年ぶりに学園に立ち寄ったのに
驚きをどう隠せばいいのかとも思えた。
「みつき先輩、お久しぶりですね。」
「えぇ、三郎も元気そうで何より・・・って、三郎も大きくなったわね。」
門の前に声が上がるのは歓声は六年の潮江 文次郎の耳にも届いていた。
歩くたびにまさかまさか、とそんな訳ないと胸に本音を隠しながらも
文次郎が見た時には、それが嘘ではないと現実に思わせるものであった。








スーパー・ガール









「潮江!久しぶりだね。」
「!みつき先輩もお元気そうで。」
所変わり、会計委員会では毎度毎度ではあるが算盤の音が
響き渡っている。そんな算盤の音に交えて聞こえてくるのは
女性の声でなんとも不可解な光景であろうか・・・。
手を止めることなく算盤を見続けている文次郎にみつきはそのまま
笑顔で対応しているのをみて四年の三木ヱ門がハラハラとしていて
とっさに「そうだ!」と声をあげてしまった。
「みつき先輩。今日はどうしてここに?」
「え・・・・あー・・・潮江に会いたくて。」
かな。と真顔で答えるものだからあぁ、やっぱりと三木ヱ門は諦めてしまったので
ありました。
他の下級生・・・一年坊主からすればそんなみつきをみて驚きを隠せないだろう。
とりあえず休憩を挟むことにしようと考えた時、三木ヱ門が気を聞かせてか
下級生達を連れてお茶を貰いに会計委員会の部屋を出て行ったのだ。
だからといって元忍術学園の生徒であるみつきと話すわけでもなく
ただただ、溜まった帳簿に手をかけた・・・だけれどもみつきは・・・
微笑みながらも他の会計委員の使っている帳簿を見てくすりと笑ったり
文次郎を見ているだけで、当の本人には声をかけずである。




みつきは学級委員会に入っていた一人であり会計委員会の前委員長とは
仲の良かったのもあってよく会計委員会に出入りしていた人物でもあった。
「!会計委員会も大変だなー次期委員長殿?」
「またみつきか。暇なのかお前は・・・」
「そんなことはない。」

今でも覚えている次期会計委員長によく笑顔で接していた五年生のくのたまを
見るのは文次郎は久しぶりであった。
まるで現体育委員会の委員長や同学年の小平太みたく泥が頬に
ついていて笑っている・・・ばからしい、と思っていた文次郎に
みつきは近づいたが、ふと目の前にある算盤に目を通した。
「なんだ、次の予算会議の帳簿かな?」
「!」
すいっと算盤を弾いていた文次郎の所にあった帳簿をひらりと見ては
手におさめるとパラパラとめくっていく・・・。
自分の仕事の邪魔をされていらっときた文次郎にみつきは笑って
うんと声をあげた。
「すごい綺麗に書いてあるな。こいつとは大違いだ。」
「悪かったな。俺は昔からこういう風に育てたんだ!」
「別にお前が育てた訳じゃないだろう?な!潮江文次郎。」


すごいなお前は、と撫でられたみつき先輩の手は綺麗な細い手をしていた。
対する会計委員長はみつきとの言葉遊びを楽しんでいるがきっちりと
仕事をこなしていて不思議な感覚であるのを今でも覚えている。




「―――なあ潮江文次郎。進路は決まったか?」
「?なんですか、いきなりあんたは。」
彼女らが六年生になってからというもの、まるで暇さえあれば
こちらへとやってきているんではないか?と不思議におもう。
今日は煎餅を持って来たよ。と紙袋に包まれた香ばしい匂いが
ただよってくる。神崎左門や田村三木ヱ門は先に食べていたが
文次郎はまだ終ってませんので、と言葉にする。まだ算盤に手をつけていた。

「潮江先輩。」
「いいんだよ三木ヱ門。ちゃんと委員長殿にはお菓子の許可は
とってあるんだ。あ、それとこれをよければ左門と先生の所にもって行ってくれると
大変嬉しいんだが・・・」
「!・・・・わかりました。いくぞ!」
「はい!」
「ちゃんと先生の分の煎餅もって行くんだよー!」
ひらひらと他の委員会に属しているものを追っ払うとさて、とみつきは
端に置いてあったお茶に手をつけると文次郎が使っていた机に
置いて煎餅もおいておく。相変わらず文次郎は算盤から手を離さずに
パチパチと打っていた。
「・・・俺はまだ決めてません。」
「でもプロの忍びにはなるんだろ?」
「じゃなきゃここにいない。」
「――なあ、私は潮江と一緒に仕事をしてみたい。」
「・・・は?」
委員長に言われていて帳簿を見ていた文次郎は彼女の言葉に
驚きを隠せなかった。
今彼女はなんといったのだろうか・・・そしてみつきの言葉を聞いて
見上げた文次郎はみつきの笑った、いや、笑顔は消えていて
真剣な面持ちであることに気が付いたのだ。

「私はプロのフリーのくのいちになる。お前が卒業したら
一緒に忍びのパートナーになってもらいたいんだ。」


―――その言葉を聞いたのは、みつきが六年生になって数ヵ月後のことだった。
この言葉を残して、六年生の卒業までずっと会えなく
あの言葉の理由を最後まで聞くことはなく、みつきは学園を卒業していった。
会えない事は別に苦ではなかったがみつきの卒業試験の評価だけは確かに
文次郎の耳に入っていた。
【卒業試験では中々のものだった。】
【赤坂には本当にいい城からの勧誘が多くてな。有能のくのいちになるじゃろうな。】
だけれども、城からの勧誘を全て断って、みつきはフリーのくのいちになったのを知ったのだ。

そのプロの彼女が文次郎の前に現れたのだ。


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