富豪の外人(ヘイゼル)につけ回される主人公。






「みつきはんお久しぶりやね」
流れるような京言葉で声をかけてくるのは一人しかいない。


ここは京都でもないし、関西ではない。東の国東京である。
しかもここは羽田空港であり誰かが自分を待つとも
聞いておらず、声をかけた来た人間を分かった瞬間苦虫を潰したような
顔になってしまったのは本人もよくわかっていた。

なんでこいつがいるんだ、と悪態をつけたいところだが
久々の東京へと帰ってきたみつきはやっと慣れてきた土地への帰還に
震えていた。その声を聞かなかったようにするためスタスタとキャリーケースを
左手で引いているとその左手にあるキャリーケースが一気に重たくなった。
頑張って動かそうとしても動かなく・・・びくともしない。



恐る恐る見れば銀髪に顔が整った、男がキャリーケースに座っているではないか。
外国用の大きいキャリーケースに
この男が乗れば女のみつきですら引くことは難しい。
彼、ヘイゼルはにっこりと笑ってこちらを見てやっと見てくれたという
顔を見せてきた。


大企業の社長の息子でありながら、あと何年かで社長の座に
つくというのはもっぱらの噂であり、いろんな企業がこの男との交渉
を待ち望んでいる・・・。
無論みつきが勤めている会社もその「交渉」をしたく、数年前にあった
立食パーティーで知り合ったのがきっかけである。
社長からはお褒めの言葉と同時に機嫌を損ねたらクビだからなと
脅しをかけられてるがみつきには効果がなく塩対応でやっていてもどこからともなく
ヘイゼルは声をかけてくる。

甘いマスクで外人、しかも言葉が京言葉がまた美しすぎて
「天使様」と会社の女性達がキャーキャーと黄色い声で遠くから見ている所
まではしっている。
・・・いや、普通にこいつ天使の顔した悪魔だと思うんだけど
ともいえず、毎回喉からその言葉が上がってこない。



「みつきはんが好きな有名なショコラティエの
イベントチケットがあるんやけど・・・」
その言葉を聞いてピクりと身体と頭の思考回路が止まり
振り向くとチケットをヒラヒラとさせながらこちらを見ている男也。
その顔をみてしまったと本日2回目の後悔である。
笑みを深くしたヘイゼルは後もう一声、と思いながらも
足はとても軽やかだ。

「なんやみつきはんがど〜〜〜しても行きたいと思って
彼の新作ボンボンショコラとサイン付きのお土産トークショウ・・・用意
しとったんやけどな・・・その価値」
みつきはんも知っとるやろ?


小悪魔だ、むしろ大魔王だ・・・そう思っていると彼は腕を伸ばし
一枚のその貴重なチケットをみつきの唇に寄せた。
喉から手が出るほどに、そのチケットは魅力的で頭が鈍器で頭を叩かれるような
そんな言葉が似合う。


その紫電の瞳は欲望に崩落仕掛ける、今回はうちの勝ちやわ、
とヘイゼルは確信を持つぐらいの自信があった。

しかし欲望に負けそうだった瞳はまだ生きていて
唇に触れていたチケットをくわっと
開けた唇で奪い取るとみつきの手で突き返してきた。
まさかの対応にヘイゼルはきょとんとし、笑みは消えており
その代わりに勝利の笑みが深まったのはみつきの方である。
「私だって夜中ネットでゲットした推しのチケットは
ゲットしてるのよ!!!残念でした〜〜!」
「・・・あらま」

「秘書のガドさんとでも仲よ〜〜〜く行くとよろしいんやないの?
ほなおおきに!サンキューサンキュー!さようなら!」
チケットをヘイゼルの胸ポケットに突っ込んで
黒曜石の様に綺麗な髪の毛の騎士はさっさとキャリーケースを
引き空港を後にしようとした、したのだが。


「うちはみつきはんのそういう所、ゾッコンやわ」
「・・・いやだから私は一人で推しのトークショウ行くからついてこないでよ!」
「来るなというて行かないアホいます?いないわあ、なら
場所は一緒やね」
外に車を待たせておりますから、いきまひょ。
とキャリーケースはあっさりとヘイゼルの手に渡り
その片方の手はみつきの手をしっかりと握って空港出口へと
無理矢理強制ルートへと運ぶ形になってしまったのだった。


なんでこうなるんだよ!


2022.1.31



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