***

「なんだみつき、八左ヱ門と喧嘩でもしたのか?」
「・・・三郎先輩本当にあたしのこときらいですよね。」
「いいや、可愛い後輩が悩んでいるんだ。先輩としてはそりゃ心配にもなるだろう。」
「・・・からかって、ますね。」
「わかるか?」
「三郎先輩とは何年付き合ってるんですか。」
真昼の委員会活動の時間・・・学級委員長委員会が使われている場所には
まだ1年生や5年の同級生の尾浜 勘右衛門はいなく、三郎とみつきが部屋を陣取っていた。
というよりも三郎が予算のことで話があるということで呼ばれたのだが
そんなのは全くのデマであり、みつきを呼び出して一緒にお茶するための名目にすぎない。

今回のお茶菓子は都で有名なものらしく、みつきを呼んだのだという。
いつもは丁重にお断りしていたがお茶に付き合っていた。
一口、お茶菓子を食べたが、本当に珍しい味でみつきも少し驚いた表情を見せた。
「・・・これ、お酒はいってませんか?」
「そうか?そうなのかもしれないが、まあまあ。」
「三郎先輩・・・」
じろりと目が据わってしまったしまい、まだまだお酒に弱いみつきは小さな顔がほんのりと
赤くなったのをみて三郎は小さく笑った。
都で有名なものを見せればみつきの手に収まり、一口、また一口と
小さな口に入っていく。
益々、顔が赤くなってきたと同時にうつろうつろとしていてちょっと
お酒が入ったものを食べさせすぎたかな、と三郎は思いながらも
また笑みを浮かべながら一箱彼女に見せて・食べさせて・・・、やっと言葉をつむぎだした。
「なんだ?八左ヱ門のようになりたいんじゃなかったのか?」
「・・・なんで、三郎先輩が知ってるんですか・・・」
「お前をずっと親のように見ていたからね。いや―――妹のように・・・か?」
八左ヱ門は酒が豪快に飲める、生物を大事にする、等教えてくれたのは三郎でもある。



みつきを大事に可愛がっていた時、ふとみつきがこういったのを今でも鮮明に覚えていた。
『三郎先輩、竹谷先輩ってどうしてああもすごい人なんですね。』
『?すまない、みつき。よく言葉をちゃんと考えてから話してくれ』
3年生だったみつきがいつものようにお茶菓子を食べに来た時に、自分の級友の名前が
出てきたのだ・・・
驚くだろう、だって私と・・・それと会計委員位しか忍たまを知らないみつきだからだ。
『えっと・・・』
『なんだ、竹谷みたいなスタイルになりたいのか?』
それはそれは、とみつきが竹谷みたく土にまみれて生物たちを探したり毒虫を
へらっと笑いながら取るのを想像するだけでも可笑しいものだ。それじゃまるで八左ヱ門2号みたいだと・・・
『んー・・・引っ張られる・・・すごい人ですね。』
『・・・そうか。』

これが憧れ・もしくは彼女の初恋みたいなものなのだろう。
当の本人はそれは憧れと自負しているみたいだが。

「・・・あの人に追い付けない・・・」
「?みつき・・・」
「三年の頃から・・・じゅっと・・・変わってなかったんでず。」
ついに声が涙声になっていて、そんなみつきに若干驚きながらも
彼女が話す言葉をただ聞くことに集中した。
下を向いているみつきはまるでいつもの、くのたまとしてのみつきじゃないこと位は
三郎でもわかった。
「生き物を大切にずるっとか、何でも一生懸命などっ、所とか・・・」
「あぁ・・・」
「だけど・・・あの人は遠いんでず。」

関門をクリアしたかと思えば、あの人は止まることを知らないでまた遠くまでいってしまう・・・永遠に一緒に歩むことなんて出来ない。
自分でもできる、と思ってしまっていた油断もあるかもしれないが
あれすら出来なかったことに一気に格の違いを見せ付けられた気がしたのだ。



「人に尊敬ざれる・・・あの人みたいな人間に・・・忍びに・・・
でも・・・それって、まるでざぶろう先輩が昔聞かせてくれた恋話のようで・・ず。」
これを恋と呼びたくはなかった、だって・・・三郎が聞かせてくれた
あの話は恋をしたものは絶対くっつかないからだ。
恋焦がれて、でも恋した男とは永遠に交わることのない話―――
恋なんて・・・恋なんて絶対したくないと思ったのだ。

下を向いていたみつきをぐっと手を前に引かれて胸元に体が押し付けられた。
暖かくて、涙が止まるかと思ったらもっと涙が止まらなくなる。

・・・ずるい。
三郎先輩だからといって安易に泣かなければよかった。
「・・・ざぶろう先輩、すいませ―――」
涙と鼻水が両方を布でとりあえず拭い目の前で抱きしめてくれている三郎を
安心させなければ、と思っていたら土の匂いが微かに鼻についた。
・・・それに、上を向けば・・・三郎先輩じゃない・・・あの人がいたのだ。
「・・・ごめん。」
「・・・なんで?」
彼がつむいだ言葉に対して疑問を投げかけたのではない。
なんでこの人がいるのだといいたいのだ。









突然だが、俺は赤坂 みつきというくのたまを知らなかった。
一年下というのもあったし、正直くのたまとは合同練習くらいしか相手しなく
恋愛対象外でもあるからかもしれない。
そんなみつきと出会ったのは、予算会議前の予算案提出の時だった。

パチパチパチッ、軽快な音が会計委員会の部屋の外からでも聞こえてきた。
予算会議とは、合戦である。上級生たちが口を揃える程恐ろしいものなのだ。
その予算を仕切っているのは会計委員会でもあるから、その根城に自らが入ろうか
躊躇している最中だった。

「どなたですか?」
「!」
襖がさらりと開いた瞬間桃色の制服が目に止まった。
学年ではこの色の忍たまは見たことがない・・・だから一番目に止まった。
目がくりっとしていて、長い栗色の髪の毛を一つに纏めている少女は
・・・くのたまだ。
一年の時には散々にイジメられていたのを脳裏からごそっと思い出させられて
一歩足を引こうとした時、彼女があ、と何かを見つけた声をだした。
「予算会議の申請書じゃないですか。あたしも会計委員会なんです。
もって行きますよ。」
「え・・・君が?」
「はい、生物委員会ですね・・・確かに受け取りました。」
にこりと笑った彼女が、竹谷の瞳に焼きついた瞬間だった。


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