*オリジナルキャラへのちょっとした注意あり。

―――まるで牢獄だ。
気持ちいいあの快感はみつきの身体に濃くいまだにくすぶっていた。
まるで消えない熱のようなその感覚にアクアリウムの中で誰にも話せずに
泳ぐこともままならず小さな岩に腰を下ろした。

赤い金魚はどうしたのだろう。
その赤い金魚については「体調が悪いので他の鉢に変えましたよ」
と食事をもってきてくれたジェイドからの回答にああ、と彼女の答えをすぐに渡した。
その答えに不可解ながらも納得をするしかなく
みつきはそうですか、と小さくその言葉を飲み込んだ。
会いたいといえば会わせてくれるのだろうか、だれかと話がしたい。

自分が「外」に出たいと、あの3人以外に言える人に。
黙々と晴れない気持ちが次第に心の中を埋め尽くしそうになる。


他のことを考えようとみつきは最近ジェイドが持ってきた
絵本をアクアリウムで見るようになっていた。
その絵本はみつきの手に収まりページをめくればみつきが読める文章だった。
内容に関してはとても分かりやすい…
タイトルは「にんぎょひめ」
人魚姫が王子様に恋するという恋物語でありその話をみて
驚いたのは王子様と結ばれず人魚姫は泡となってしまう。

…嬉しい贈り物だったはずなのにその話はとても悲しく
ぽっかりと穴が開いたような感覚だ。
しかし、その絵本はとても綺麗な絵なのか、終わりのみを除いて
何回も、何十回もページをじっとみては
一日を終える…













「みつき!」
「!?」
誰?
赤いかみの毛の、アズール達が着ている服装に身を包んだ男は部屋に乗り込んできた。
恐る恐ると入ってきて警戒心だからか眉間にしわが寄っている。
汗もかいているのだろうか、額から汗がうっすら見える。

…初めて見た「彼ら以外の人」に驚きを隠しつつもみつきは一度アクアリウムの
人魚一人が隠れられる隅っこの陰に入りアクアリウムの中をのぞく。
鼓動が激しくなって胸に手を置いた。


その音が次第に大きくなってきて止まらない、そう思った時
部屋の奥にあるアクアリウムを彼は覗き込んだ。
覗き込んで、隅々まで確認している。
しかし対象のものがなかったと少し肩を落としていたが彼は口を開いた。

「オレはお前とあった金魚だ…覚えてるか?」
「…え?」
「お前が外の世界へ行きたい、って、言ったの、オレは覚えてる」
「…」

「オレ、記憶が全然戻らなくて…でも―――寮の監督生の名前を聞いたら
思い出したんだ…お前もその監督生と同じ名前だったから」


彼も興奮しながら早口でしゃべるものだから寮の名前がうまく聞き取れなかった。
たぶん、敵ではない…その空気が語られている彼の言葉は初めて会うはずなのに
信用ができるような気がした。
そっと陰から出ると彼はほっとした、そして真剣な顔から少し驚いた顔になった。

「遅くなってごめん。お前を解放するためにここに来たんだ…早く逃げよう」

アクアリウムの上へと上がると彼はポケットに手を突っ込む。
ポケットからでてきたのはジャムの瓶であり中を開けアクアリウムの水を入れた。
ああ、やっとここから出られる…そう思うが
脳裏に焼き付いているのはいつも世話をしてくれているターコイズの君。
ジェイドのことである…さよならも言えないまま行くのもどうか…その葛藤は
少しだけあるが好機を前にして手に取らない馬鹿がいるのだろうか…否。


水をいれて殻の瓶の中に来るように誘導され、素直にみつきは入ると彼は
ほっとした顔をした…その瞬間、勢いよくジャムの瓶をいきなり締めたのだ。
突然閉められてみつきは驚いた顔をしたが、彼の顔は馬鹿にした顔だ…
微笑んでいる口は歪んでおりみつきは困惑した顔を隠せなかった。

「やった、ついにリーチ兄弟とアズールの弱みを手に入れることができた!」
「…え、金魚さん?」

先ほどの彼の顔とは違い、意地のわるそうな薄笑いに
さあっと顔が青くなるのを感じる。
自分が知っているあの時の金魚の表情でも、ましてはさきほどの自分を助けに来てくれた
王子様のような澄んだ綺麗な顔ではない。
いうなれば、にんぎょひめに出てきた魔女のような顔だ。



「君を助けてはあげる…だけれどもオレとアズールの契約が先だ…」
「(どういう、こと…)」
突然のことにみつきは頭の思考が追い付いていない…
どうしよう、そう思った時きい、と静かな部屋から音が聞こえた。
その音を聞いて彼は反射的にみつきが入っている瓶を後ろに持ちかえる。
部屋のドアを開けたのは、その部屋の主人であった。


「そこのあなた…僕の部屋に何か用事でも?」
「…いや、俺の部屋と間違えたよ…すまないジェイド…」


「いいえ。――――しかし、あなたは一度アズールのところにいったほうがいいかもしれないですね」
「…どういうことだよ」
「あなたが何かを思い出したのは僕の部屋に来たというので明白ですから」
にこりと笑ったジェイドをみて彼の声は頼りなく震えるるのがわかる。
そしてジェイドの瞳は細くなり彼の後ろに隠されていた小瓶をするりと取ったのだ。
その中にいるものをみてジェイドの顔は予想通りという顔で
笑みは口に張り付いたまま。


「フロイド、もう到着しましたか?」
フロイド、その言葉を聞いて彼の顔はみつきの顔以上に青くなっていた。
ぴょこんとやってきたのはフロイドであり、微笑みというよりも
標的を見つけたものの目と表情をしていた。

「ちょうどいい感じじゃね?ほら、今から締めてやるからさっさといくよ」
「ちょっ!まてよ!!!その人魚…!オンボロ寮の!!!!」


オンボロ寮の、その言葉の続き…獲物となってしまった彼、言葉の続きは
扉から出てしまってからすべてを聞くことは残念ながらできなかった。



彼、赤い髪の男がいなくなってシンッとまた部屋は静まり返った。
ジェイドの持っている、みつきが入っている瓶を開ける。
みつきは驚いた顔と突然何があったのかわからないという困惑した
顔でジェイドを見た。
ジェイド表情は神妙だった…その顔にさせたのは紛れもない自分。
それは変わりはないのだ。
「ごめんなさい、ジェイド」
「いえ…しっかりと鍵をかけておくべきでした。怖い思いをさせてしまいましたね」
「…」
「次からは気を付けますね…。とりあえず戻りましょう」
アクアリウムへ…。


紛れもない罪悪感、なぜ自分が狙われたのか…ただ、外の世界に行きたかっただけなのに。
アクアリウムに戻るみつきをみてジェイドはアズールから預かっていた
食事をみつきに与えることに気持ちを切り替えた…
薄いほの暗い怒りを彼に託して。











VIPルームに呼ばれたのはなんとなく察しがついていた。
耐えようにも耐え切れず、笑みが口角に浮かぶではないか。
VIPルームに先に入ってきた男は赤髪の男で
同じオクタヴィネルの服を着ている…しかし、隣にいる暇そうな顔をしている
男がやったのだろう、彼の服装はボロボロでまるで使い古された雑巾のよう。
僕が座るとぽりぽりと髪の毛をいじっていたフロイドが
しゃべり始める。

「ジェイドの部屋に勝手にはいって小エビちゃんを盗もうとしたから
締めあげちゃったぁ」
「なるほど…アナタもやっと自由になれたのにお気の毒ですね」
「…アズール…」
「僕が折角契約を慈悲の心で解いてあげたというのに…まったく…人間は愚かだ」

同情している言い草だが、アズールの心は負の心が埋め尽くされている。
その気持ちを表に出ることはないし、彼もそれに気が付いていない。
あくまで上からの対応に心底腹が立つのだろう、彼の顔は
赤い髪の毛同様に真っ赤である。

「お前たちがオンボロ寮の監督生を監禁、しかも記憶までなくしてるのを
学園長にいっていいんだぜ?」
「…ねえアズール」
「いけませんよフロイド。…あなたが僕を脅迫していることは見えています。
…ただし残念だ…」
「…え」
「あなたは覚えていないかもしれませんが…。契約を一度解きましたが
もし僕たちの大事なものを取ったときは…」


こうなりますよ。


パチンと軽快な音が聞こえた瞬間ボンッと小さな爆発音が聞こえた。
赤い髪の毛の男の頭上に生えているヘンナモノ。
それをみて怒涛のような叫びを発した。
触るとぶにょぶにょした感触に小さな震えまでも感じる。

「おめでとうございます。これで晴れてあなたも僕の所有物…
イソギンチャクになったわけです」


さあ、まだ何か主人に対して言いたいことはありますか?
金色の契約書は光輝き、アズールの負の心は晴れた。
フロイドはつまんねー、といいながら重たい足取りでイソギンチャクとなった
彼を連れてモストロ・ラウンジへと足を運ばせるのであった。



20200606


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