青い空、白い雲、いい天気である麗らかな午後に響くのは刃物が空を切る音……。体育の授業をやっている3−Eの姿をただじっと見ていた。
ナイフの切れる音はほぼ皆同じタイミング。ホイッスルの音が聞こえる、なんと平和な事だろう。

古い校舎の上でみているとヌルフフフと声が聞こえるではないか。後ろを見なくても、彼女は分かったようだ。

「おや?赤坂さんいらっしゃってたんですね?」
「こんにちわ殺せんせー」

声を聞いてもわかる。3−Eの教師でもあり暗殺対象でもある謎の超生物の殺せんせーであり、振り向けば美味しそうなものを食べているではないか。

「みつきさんも食べますか?」

前にカルマくんに食べられたイタリアジェラートの新作です。といって隣にちゃっかりと座ってきた殺せんせーにみつきは笑うしかない。触手から一つジェラートを受け取った。

赤坂みつきは3−Eでもなければこの椚ヶ丘中学校の生徒でもない。異端なその存在ではあるが人間ではある。
カノジョはただの「物語に出ないはずの人間」であった……。
 静かに授業を見るだけのみつきに「みつきさんもよろしければ体育の授業に参加しませんか?」楽しいですよきっと、という殺せんせーの言葉にみつきは頭を横にフッタ。

「別に私E組じゃないですもん」

そこら辺はカノジョはしっかりしている、物語の脇役にもならないつもりだ。

「私が入っちゃうと面倒な事になるじゃないですか」
「……もう私の事を【殺せんせー】と呼び、ここにいる以上は脇役なんて言わせませんよ? 赤坂さん?」

それよりもジェラートが溶けてしまうと殺せんせーは呟きまた食に目を落とした。

「(あ、渚君気づいたみたい)」

ふと視線がすると思ったらがっちりと目線があったのは少し小柄な少年の潮田渚である、にこっと笑ってくれたので笑って返した。

**

赤坂みつきという人物はこの世界で知っているのは3−Eの生徒と殺せんせー、そして烏間やイリーナしか知らない。
今は防衛省のお偉い様方の狗みたいなものだ。(勿論それ相当な仕事もするのである)家も適当、当日決められたホテルが寝床だ。お偉い人様からの経費で落としてもらっている。
 何不自由のない、贅沢な生活……。

そう考えていたらもう体育の授業は終わってしまっており、渚や他のE組の生徒も気が付いたようだ。

「赤坂さん!」
「みつきさん来てたんだね!」

渚やカエデが手を振ってきたので屋根にいたみつきはすっと屋根からまっすぐに落ちた、無論無傷である。

「うん、今日の仕事も終わったので来ちゃった」

にっこりと笑みを零すと見知っているE組の女子達も集まってきた。その中に少しだけ男子も混ざっている、その中に、目立つ彼もいた。

「そんなに暇そうならみつきも授業受ければ?」

サボリは俺もそうしたいけどね、と笑って言う赤髪の彼は、赤羽業(カルマ)である。武器の素振り、そして烏間との実践後だというのにあまり息が上がっていない……授業を通して
いくとこうも変わるのだろうかと冷静に分析していると目の前に見える顔がドアップなのに気が付いた。

「……近いですカルマくん」

綺麗な顔は前々からしているとおもっていたが美しいというのは罪だという。言葉を改めて実感をする。
カレ、カルマは判ってそうしていたらなんという男だろうと頭の中で思っていた。

***

「……疲れた……」

時間は少し過ぎみつきは滞在しているホテルの部屋に着くとホテル前ではみせなかった弱気な顔をみせていた。
部屋に着き奥にあるテーブルと椅子にめがけて歩きやっと椅子に座るとため息だけがもれる。

防衛省からの依頼が中々にハードだった。
いつもなら暇な時が6割、仕事が4割、今回は仕事の大変さを表すなら8割といった所か……久々のデカイ仕事だったために緊張と継続して疼いていた本能が流れっぱなしだったのだ、疲れないはずがない。

やっと何日かは暇になるだろうと思っていた。


トントン。



はっとみつきは目の前に見える、数十歩先にある扉に目がいく。……誰だろう。
この時間に来るとしたらホテルの人間かはたまた防衛省の偉いものか……。烏間かとも考えたが来るとしたら事前に連絡する男だからそれはないだろう。そう思いながら……あえて椅子から立ち上がり、その場で足音を鳴らした。
まるで歩いている風に。声も少し大きめに、目の前まで来たと思わせるために少し大きめで喋った。

「……どなたですか?」
「みつき様、フロントでございます。XXX様から小包が届いておりましたのでお持ちしました」
「……」

フロントマンの声は確かに先ほどルームキーを貰ったときの男性の声と似ている……疲れている体はとりあえずフロントマンをさっさと帰らせたいからか、足音を消し、扉の前までみつきは向かいドアをあけたのだ。

「まァーた引っかかった」

赤いアクマ……疲れているからといって安易にあけるものではなかったと痛く痛感してしまった。





『まァーた引っかかった』

そういって彼は彼は私の泊まるホテルに何度も来るのだ。
前はボーイ・その前も忘れ物を届けに来たフロントマン。もっと前は烏間の声をどこから盗聴したのだろうか……その声を聞かせて油断していた隙に入ってきた。
今回は、防衛省関連なのかもわからない者からの小包をもってきたフロントマン……やられたと痛感する。
みつきが頭を抱えているとカルマは関係ないような顔で部屋へとするっとはいってきた。いやいや、まてまて。とやっと思考が追いついてきた。

「――カルマ君は女の子の部屋に入るのが趣味なんです?」
「いや? みつきの部屋だからっていうのもあるけど……まあどうせお前ヒマでしょ? 面白い映画持ってきたから一緒に見ようぜ」

にっと笑った彼の手に収まっているのは暗殺をストーリーとした映画であり、続編の2・3まで収まっている。

先ほど時計をみたら午後の7時を回っているのだから、これを全てフルで見終えたとしても0時を越えてしまうのは。安易な事でみつきは小さなため息を零した。

「カルマくん。貴方は中学生ですよ?」
「そんなみつきだって俺と同じ中学生だろ?」

質問を質問で返すなんて卑怯である。彼は帰らない気満々ではないか。むしろ帰らないという意思がはっきりと見られている。

なぜかカルマには否定をしても押し返される。本当に見るまでカルマは帰らないだろうと思いみつきは勝手に入ったお客人を招きいれた。



デカイTVに映し出される本編。少し離れた茶色いソファーにカルマとみつきは座っていた。
引っ付くわけではなくもう一人座れるスペースくらいあけていた。そこにはホテルマンにお願いしたアラカルトを置いている。そして美味しそうな飲み物付きだ。
部屋を暗くしてみていたがどうしてもみつきは映画は面白くても疲労のせいで目が鉄のように重たいと実感する。話は確かに面白い。ただし眠い。
ウトウトとしているとカルマがわかったのか「寝れば?」と小さな声で呟いた。

……彼は、わかっていたんだ。
疲れていても仕事終わりの日は寝られない。ここ最近の悩みだと殺せんせーか烏間に珍しく相談したこと。
どこで判ったのだろう。
暗い部屋、いつの間にかアラカルトは下げられていて隙間がなくなり少し左に体を傾ければ彼……カルマの肩に頬が当たる。
暖かい彼の体が妙に安心してそのまま目を瞑った。

「お疲れ、みつき」

彼の声色は暖かい子守唄のような安心感があった。



ああ、カルマという男には敵わない。
これだけは揺るがない事実である。


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