「あーつまんねえ」


ずっとノートの端に落書きをしていた手が止まったと思ったら、そんな文句を吐き出しながら寝転がった。

「辺見…お前さっきからちっとも進んでないぞ」
「黙って勉強なんて俺の性に合わない!」
「合う合わないの問題じゃないだろ」

冬休みの宿題が手につかないらしい辺見は、俺の話も聞かずに勝手に手の届く範囲を漁り始める。
見られて困るようなものは別にないので態々止めることもせず、何度やっても答えが合わない計算式へ頭を戻した。

「…………源田、源田くん」
「今度はなんだ?」
「これ何、誰の」

辺見が示す先には寝間着用のスウェット一式があった。

「お前寝るときパジャマだよな」
「ああ」
「あとSサイズとか入らないよな」
「そうだな、第一それは不動のものだからな」

俺がそう言った途端、辺見は大袈裟に後ずさってベッドの縁にぶつかった。

「ふ、不動の、だと」
「何か悪いことでも言ったか…?」

俺の問いかけに、辺見はしきりに悪かないけど、悪かないけどさァ、と答えながらベッドの上に座った。

「…このベッドって一人分?」
「そうだが」

そこで変な顔をする意味が分からない。
辺見はそのまま暫く変な顔をした後、小さく口を開いた。

「………お前らどこまで行ったわけ?」
「…?どういう意味だ?」
「だからァ…その、不動のスウェットがあるってことは泊まりに来てんだろ?」
「ああ、時々な」
「…その、…したりとか、した?」
「何を?」
「っあーもう、だから、もうセックスしたかって聞いてんだよ!!」


思わず口が開いてしまった。
せっくす。あたまの中で辺見の言葉を繰り返してみた。
途端顔がかあっと熱くなる。

「なななな何を…」
「……その感じだとまだか…」

少し安心したような辺見に妙な余裕が見えた気がして、無意識の内に口が動いていた。

「へ、辺見逹は」
「えっ?!お、俺ら?!…俺らは、その、あれだ…ま、まだだけど」
「そ、そうか」

そのまま二人して黙ってしまった。そういえば辺見とこんな話をしたのは初めてかもしれない。

「「あの、」」

ぱっと顔を上げれば同じように辺見も顔を上げていた。

「源田さ、その…不動とキス、した?」
「っ、ああ…一応は…辺見は、咲山と」
「お、俺らも一応」
「そうか…そ、その…どうだった」
「どうだったってお前…!」
「わあ、すまん、わ、忘れてくれ」

耳まで真っ赤にして動揺しはじめた辺見を見て、我ながらなんて不躾なことを聞いてしまったんだと少し後悔した。


「……悪くは、なかった…かな」

思いもよらない返答に、聞いた側のこちらがどきりとしてしまった。なんだか、いつもより辺見が可愛く見える。

「そうか、そうか」
「なんだよその笑みは…」
「いや、良かったなあと思ってな」
「お前らの話も聞かせろよな!聞き逃げなんて許さねーぞ」
「な、何っ」


勉強会、なんて称してお互いののろけを聞かせ合うなんて。


「俺らとんだ乙女だよな」


たまにはこういうのも悪くないな。







おわり
仲良し右組




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