金持ちと貧乏人
南沢さんは不味そうに物を食べる。
男のくせに一口が小さいし、どんなに高そうな料理でも嫌いなものには一切手を付けない(只でさえ量が少ないのに)。
どうしてそんな金持ちの我儘坊っちゃんとこうして昼食を共にしているのかというと、
「…何見てんだよ」
のり弁持参のオレに対する嫌味なのか、向こうから誘ってきたのだ。
「別に見てないですけど。あーのり弁うめえなーオレのり大好き名前も典人だし」
がつがつと飯を詰め込む。目の前の奴がちまちま口に運んでいる肉だの何だのなんてちっとも羨ましくなんかない。
「ほら、食えよ」
「のりあるんで要りません」
「全部なんてやらねえよ。一口に決まってんだろ」
オレだってプライドっつーもんがある。でもそんなこと考えるよりも先に開いた口があーんと差し出された肉を受け止めてしまった。
貰えるもんは貰っとく、という貧乏根性が染み付いた身体がつくづく嫌になる。
「どうだ?」
「…うまい」
うぜえドヤ顔で聞いてきたかと思ったら、そうか、なんて言って笑うから、なんて言うか、この人無駄に綺麗な顔してるから、なんか、
「ムカつく」
「はあ?」
「何でもないです!」
前にも述べたように、南沢さんは金持ちだ。
よく家にも呼ばれるけど、あれは最早家なんてもんじゃない。城だ。キャッスル。
門はでかいわ無駄に広いわ部屋は多いわ、家賃一万八千円のアパートとは大違いだ。
オレん家が貧乏なのを知ってか知らないでか、南沢さんはオレを家に呼んだり昼食に誘ったりする。
同情されてたら嫌だからと思って一度断るけど、そうすると一瞬悲しそうな顔をするからなんか断れない。神童もそう。金持ちの頭は本当によく分からない。
いつだったか南沢さん家に呼ばれて行ったとき、マカロン?とかっていう派手な色の割にうまい菓子が出てきたから素直にうまいって言ったら次の日大量に家に送られてきた。
電話を掛けたら「もしかして足りなかったか?」とか聞いてきたからもう電話代の無駄だと思って切ったけど。
こんなにも差があるのに、南沢さんはどうしてオレに構うのか分からない。
「…何故俺がこんなことを…」
「南沢さんちゃんと根っこから抜いてくださいよ、それじゃ復活する」
「嫌だ汚い触りたくないやりたくない」
「あーもう使えないなー」
部員からいくつか苦情があったため、今日の部活は清掃になった。
オレ達はグラウンド周りの草むしりを任されたのだが、普段部屋の掃除すらまともにしたことのない南沢さんは終始やる気がない。
「こんなことやってられるかよ」
「さっきから全然やってないじゃないですか」
「…お前、よく触れるな…」
「昔よく食えるやつと食えないやつの選別とかしてたんで」
「食っ…これ草だぞ、食えるやつとかあるのか?!」
「昔の話ね。いいから早くやってくださいよ」
翌日の朝早く、宅配便で野菜が大量に送られてきてオレは言葉も出なかった。
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