腕相撲
「こっちだ!!…………ってまたババ?!」
うわああ、と頭を抱える浜野と、それに向かっておいいいからカード出せよと半ギレ気味の倉間。
「…これ、いつまでやんの」
「さあ…ははは」
もう本日6度目になるこの光景を、既に手札を持たない南沢と速水は遠巻きに見ていた。
せっかく4人になったのだからババ抜きにしようという浜野の提案で始めたのだが、この世には【言い出しっぺの法則】というものがあるらしく。
常にポーカーフェイスの南沢→やたら運のいい速水→ポーカーフェイスなのに運のない倉間→ババ抜きに向いてない浜野、と何度やっても順位が変わらない。
しかも残る2人のターンがやたら長いので、先にあがってしまった2人は暇で仕方ない。
「ッよっしゃあああ!」
6度目も倉間が勝利したようである。
浜野は暫く撃沈していたが、突如思い立ったように立ち上がり、喜ぶ倉間の前にテーブルを置いた。
「倉間!腕相撲で勝負だ!!」
いや意味が分かりません、といった表情の2人を余所に、勝った喜びで気分の上がっている倉間はかかってこいよ!と無駄に乗り気。
「速水ーれでぃーごーってやってくんねー?」
速水はちらりと南沢を見たが、俺はそんなガキっぽい事には交ざらないと一蹴されてしまった。
「れでぃー…ごー」
掴んだ腕にぐっと力が入る。
「おりゃっ!」
「うぐぐぐぐ…!」
ぐい、と倉間の手の甲がテーブルに近くなる。震えながらも耐えていた倉間だが、努力も虚しく手の甲はテーブルに張り付いた。
「よっしゃー!おれの勝ちーっ」
「おま…強いな…」
「次南沢さんやりましょうよ!」
一気に上機嫌になった浜野は、南沢に勝負を持ちかけた。
「速水とやれよ」
「えー速水じゃ折れちゃいますよ!ね、やりましょ!」
「俺はそんなのに熱くなれる程ガキじゃないんでね」
「…南沢さんおれに負けるの怖いんでしょ」
浜野の言葉にピクリ、と肩が動いた。
「ちゅーか、おれに勝つ自信ないんだ」
「…いいぜ、やってやるよ。後悔しても知らないからな」
南沢は抱えていた枕を置き、既にスタンバイしていた浜野の手を掴んだ。
「ふんぬぬぬ……!!」
「…っく…!!」
両者共に譲らずかれこれ5分弱。お互い力の入った腕は開始から殆ど動きを見せない。
倉間はその様子をじっと眺め、考えていた。普段ならば南沢に突っかかりたい倉間だが、浜野に負けてしまったのがありここでまた浜野が勝利するのは正直癪に障る。
だからと言う訳ではないけれども、今回ばかりは南沢に勝って欲しい、いやそれよりも浜野が勝つのを見たくないと倉間は思った。
「南沢さん、頑張ってください!」
「えっ」
倉間がそう言った瞬間、間抜けな声と共に南沢の腕がぺたり、とテーブルに張り付いた。
「「「「あ」」」」
やったやったと速水を巻き込みながら喜ぶ浜野を尻目に、倉間は文句を垂れていた。
「はあー南沢さんマジ使えないッスね」
「なっ…お前なあ、あれは、」
あれはお前があんなこと言うから、と言いかけてしまったことが妙にむず痒く感じて、南沢は一発倉間を殴ったのだった。
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