トランプ


「トランプしよ、トランプ」

速水を連れて人ん家に押し掛けてきた上に暇だ暇だと文句を垂れ、挙げ句の果てにトランプしよ、などと提案したのは勿論浜野だ。

「おい浜野。ここオレん家だぞ」
「知ってるよ?大丈夫トランプどこにあるか分かるから」
「ち、ちょっと浜野くん何してるんですかあ」

速水の制止も聞かずに机の横の引き出しを勝手に漁る。当部屋の主である倉間は表情に少し苛立ちを見せながら浜野を見ていた。

「みーっけ!何やる?」
奥の方からトランプを見つけ出した浜野は、鮮やかな手つきでカードをきりながら訊ねた。やがて誰も答えないのを確認すると、ほんじゃスピードで、とこれまた勝手に決定した。


「よーい…スタートっ」

ジャンケンの結果、最初のゲームは浜野対倉間になったようだ。
初めの内は僅差だったが、後半にきて倉間のカードの減りが早くなった。

「あがり」
「くっそー負けたあー」
「まあ当然だろ」

結果は倉間の勝利。渋々始めたように見えた倉間だったが、実をいうと少し自信があったのだ。終わってみれば、まあ、満更でもないといった様子である。

「じゃあ次、速水対倉間〜」

一度勝利を決めた倉間は、まあ速水が相手なら楽勝だな、などと考え、余裕綽々といった感じだ。


「ほんじゃ、よーい…どん!」

2人の手がほぼ同時に伸ばされる。
若干倉間の方が早い様に見えたが、次の瞬間何度か空を斬るような音が聞こえ、速水の横に積まれていたカードが無くなっていく。
倉間も応戦するがあまりの速さに追い付けず辛うじて出した2、3枚は速水のカードを出しやすくするためのようになってしまった。
速水の手札は残り4枚。

「倉間くん、それ、出してください」
「えっ?」
「だから、その、9と5、」
「あ、ああ」

呆然としていた思考を振り払って、言われるがままカードを出した。
その上にまた速水のカードが重ねられ、あ、7と12が出せる、と思った時には既に速水が小さくあがりです、と言いながら12のカードを出していた。

「………えー…」

倉間と浜野の口から落胆とも驚愕ともとれる声が漏れた。
その反応に速水が反論しようと口を開いた所でインターホンが鳴った。

「誰だ?」

玄関で暫く倉間の母親と話していた声が止み、足音が二階へ上がってくる。
やがてノックもなく扉が開かれた。


「よお」


「「「南沢さん?!」」」













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