がりがり、という音がして顔を上げると不動の顎が動いていた。
咀嚼されたものはごくりと音を立てて飲み込まれ、また新しいものを求めて手が伸びてくる。

『不動、』
『あん?なんだよ』
『噛むなら舐めるな』

不動の手元から飴玉を奪う。
ついでに飴玉の入った容器も。

『はあ?返せよ』
『お前はすぐに噛み砕くだろう』

噛み癖は小さい内じゃないと抜けない、と昔母さんが言っていたのを思い出し、同じ台詞を不動に言った。

『噛んじゃわりーのかよ』
『悪いとは言っていない』
『じゃあ寄越せよ』

不動の手がまた伸びてくる。俺は後退りながらそれを避けた。

『…飴玉は噛むものじゃないぞ』
『……バカにしてんの?』
『してない』
『もういいよ、分かった。噛まなきゃいいんだろ、寄越せよ』

腹が減ってるんだから、と催促する不動の手に飴玉を乗せると、薄い桃色の飴玉は瞬く間に不動の口に放り込まれた。
腹が減ってるなら何か食べればいいのに。
果たしてただの飴玉1つで腹が脹れるものなのかと不思議に思っていた時だった。


がりり。


『…………不動、今』
『うっ…るせえなあ噛んでねえよ!』

クッションが飛んできた。
顔面にクッションがヒットした時に、あることを思い出した。

『不動、俺を噛め』
『…きめえ』
『違うそういうのじゃなくて。とりあえず、噛むんだ』

気が進まない様子の不動の前に腕を差し出す。いかにも気色悪いと言った表情をしているな。
早くしろ、と腕を近付けると漸く牙を向いた。

『痛い』
『源田、お前、Mか』
『見ろ、不動、痛いぞ。血が出てる』
『見りゃ分かる』
『だから噛んじゃ駄目だ』
『はあ?』
『あのな、噛まれると痛いってきちんと教えてやれば噛み癖は抜けると母さんが言っていたんだ』

不動は口と目を丸く開いてぽかんとしている。

『その…大人になった時噛み癖が抜けないと…』
『だから俺に痛いって教えようとしたわけ?』

黙って頷くと、不動は笑いながらお前はほんとにバカだよなあと言った。

『むやみやたらに他人噛んだりしねえよ』
『そ、そういうことだけじゃなくてだな…』
『飴玉は舐めてんのが面倒になっちまうだけ』
『む、そ、そうか』

なんだか早とちりだし噛まれ損な気がして急に恥ずかしくなる。


『まあお前のことは噛むかもしんねえな』
『ん?』


不動の言葉は飴玉の噛まれる音と混ざってよく分からなかった。










おわり
噛み癖のある子ってかわいいと思います




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