002 =====
「ほれ」
「あ、どーも」
暖かなマグカップを手で包むと、なんだかホッとした。もう夏が近いとはいえ、夕方はやはり肌寒い。
「最近絵描いてないよな」
「あー、はい。ちょっと時間なくて」
「描かないのか?」
「時間出来たら描きたい、です」
でも、多分無理だろうな。心の中で呟いた。
2年になって勉強はますます難しくなり、生活環境も以前とは違う。部活をやめなければならない状況にまでなったのだ、余裕が出来るとは考えにくい。
なんてことをぼんやりと考えていたら、頭に何かが乗った。そっと手を伸ばすと、それは購買で売っている菓子パンだった。
「お前さぁ、若いんだからもっと青春を謳歌しろよー」
「余計なお世話ですよ。あえて言うなら、これが俺なりの青春です」
俺の答えに先生は苦笑した。
「ごちそうさまでした」
結局俺は居座ってしまった。ココアを1杯おかわりし、もらった菓子パンを平らげ、ポツポツと話をした。
しかしさすがに帰らないとマズイ時間だ。夕飯はあるもので済ませないと時間がない。
「今度こそ帰りますからね」
「ああ、引きとめて悪かったな。あ」
「え?」
「俺はお前の絵、好きだぜ」
不意打ちの告白は、すごく卑怯だと思った。
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家出日和