023 =====

 バレバレとはいえ買い物という名目で飛び出したにも関わらず、財布を持っていないことに気付いたのはしばらくしてからだった。

 近くの公園のベンチに腰を下ろし、空を見上げた。馬鹿なことをしたなという自覚はある。後悔しまくりだ。でも、不思議と心はすっきりしていた。


「こんな時間に何をしているんだい?」


 それは、本当に偶然だった。
 見ると、そこにはスーツ姿の御堂さんが立っていた。近くには黒塗りのやけに長い車が停まっており、御堂先輩が乗ってきたのだろうと分かった。


「私は父に呼ばれた帰りなのだが……君の場合は、春原たちに御奉仕している時間ではないかな」
「御奉仕って……人の気も知らないで」


 普段ならサラリと流せただろうが、今は御堂先輩のジョーク──彼の場合は本気かもしれない──が不愉快だった。誰のせいでこうなったと思っているんだ!
 なんて、八つ当たりをしたそばから冷めていく。御堂先輩はきっかけにすぎない。そんなこと分かりきってる。


 それきり黙ってしまった俺に、御堂先輩は首を傾げてしまった。そのまま帰ってくれればいい。そう思っていたのに。


「いい機会だ。春原に奉仕する必要がないのなら、私に尽くしてもらおう」
「…は?」
「さあ、車に乗りたまえ」


 理解する間もなく引きずられ、気付いた時には御堂先輩の家であった。

≪≪≪戻る≫≫≫

第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
- ナノ -