019 =====
呆然としていると、御堂先輩がさらに顔を近付けてきた。そして、耳元でそっと呟く。
「君がしていることに、私は大変興味があるんだ」
「え」
「君さえよければ、私のところに来ないかい? もちろん、家政夫として」
思わず息をのむ。先輩の顔を見ると、そこに浮かんでいるのは先程までと同じ笑顔。何かを企んでいるというよりは、純粋な興味のようにとれる。
でも、すでにネタは上がっている。バラされたくなければ言うことを聞け。そう言われているような気がした。
「少し、考えさせて下さい」
それでも、すぐに返事をしなかったのは俺の意地だ。
もしこのことが公になったとして、バッシングを浴びるのは俺だけのはず。春原家に一切の迷惑がかからないとは言い切れないけど……少しくらいの抵抗は許されると思いたい。
それに、ふと思い出したんだ。「頼っていい」と春原さんたちは言ってくれた。他人事ではないし、今回はちゃんと相談しよう。守ってもらおうなんて思ってない。
「それじゃあ、私はこれで失礼するよ。何かあれば、新聞部の部室に来るといい」
キラキラとした笑顔を見送りながら、俺は夜のことを考えた。
今日、深鶴先輩は帰ってきてくれるだろうか。
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