006 =====

「今日は、ちゃんと起きてたみたいだな」


 すっかり冷めてしまったコーヒーをすすりながら待つこと、数時間。時計が12時を回った頃、待ち人は現れた。
 彼が、この前俺が眠りこけてしまった件のことを言っていると気づく。話す前から苦い表情になってしまう、もちろんコーヒーのせいではない。


「こんな時間までわざわざ起きてるってことは、俺に用があるんだよな? …見たところ、勉強ってわけでもなさそうだし」
「先輩こそ、帰ってくるのが遅いじゃないですか。勉強以外のこともしてるとか?」


 違う。言いたいのはこんなことじゃない。

 時間がたつのは早いとか、変化が怖いとか、先輩たちがいなくなってしまうのは寂しいとか。伝えたいことはたくさんあるのに、いざ目の前にすると出てくるのは憎まれ口ばかりだ。
 でも、そんな俺の憎まれ口が、深鶴先輩はお気に召したらしい。


「…へえ、ヤキモチか?」
「ち、違います!」
「まあ、どう受け取ろうとお前の勝手だからな……でも、俺の本気をそう解釈されるのは心外だ」


 ニヤニヤとした表情が一変した。薄暗い部屋に浮かんだ先輩の冷たい表情に、俺は黙るしかなかった。


「りんご、お前が絳河に決めた時と同じで、俺にだって決断しなきゃならない時がある。決断するってことは、今を変えるってことだ。それを止める権利が、お前にあるのか」

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テーマ「人外ファンタジー」
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