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結局、深鶴先輩の挨拶を聞いてからずっと上の空で、応援しようと思ったはずの新生徒会長のことはほとんど覚えてない。
彼が会長になるということが深鶴先輩が卒業に直結しているからかもしれない。
要するに、俺は寂しいのだ。「今」のままでいられないことが、変化していく毎日が、深鶴先輩を初めとする3年生がいなくなってしまうことが。
「あーゆうの聞くとさ、嫌でも実感するよな」
「新でもそう思うんだ?」
「そりゃあな。なんだかんだで、うちの親衛隊長様にはお世話になりっぱなしだったし」
1人、また1人とお別れしなければならない人のことが浮かぶ。今これで、卒業式当日なんてどうなってしまうのだろう。
「でも、りんごも大学は絳河って決めたんだろ? どうせ帰ればみんないるんだし」
「うん。でもさ、俺が行きたいのってキャンパス違うし……それに」
「それに?」
「いつまでもあそこでお世話になってるわけにもいかないかなって思うんだ」
居心地は悪くない。むしろ、想像していたよりもずっといい。
だからこそ、あそこに居続けるのは申し訳なかった。今回の大学決めでもかなりの迷惑をかけてしまったし、何より寂しいと思ってしまうのだ。
一緒にいるはずなのに、変な話だ。
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