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「あの2人は本当の兄弟じゃないんだ」
そばにいた藤岡先輩がこっそり言う。正確にはハルさんが養子として並越家に入ったらしい。ハルさんが言っていたことは事実だったのだ。疑っていたわけではないけど。
並越先輩と幼馴染みの藤岡先輩にとっても、ハルさんは兄のような存在だという。昔は仲良しだったが、いつからか並越先輩の方がハルさんから距離をとるようになった。藤岡先輩は悲しそうに、どちらかというと心配そうに2人を見ていた。
「何が気に入らないんだよ。そりゃあ、兄のくせに自由にさせてもらってるけど、それは俺が養子だからで」
「そーゆうところだよ!」
並越先輩が何かを持ってきて押し付けた。それは、ここ最近先輩が描いていた油絵だった。デッサン練習の合間に描き進めていたのを、俺は知っていた。
覗き見ると怒られるので見たことはなかったけど、その絵を目の当たりにして色々分かってしまった。
以前感じた何か。それが何だったのかも、2人の関係も、絵を見れば明らかだった。
「あんたの絵が嫌いだった。だから、僕はその絵を超える。超えてみせる」
「そんなの、絵を見れば嘘だって分かっちゃうよ」
うっかり口を挟んでしまったが、伝えてあげないと気付けないこともある。第三者が口を挟まないといけないこともあるはずだ。
2人の絵はあんなに似ているのに、嫌っているというのを信じる方が無理な話だ。
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