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午後一で始まった借り物競争は大変なことになっていた。
「三浦さんどこー? あと1人なのにー!」
「佐藤さーん! 佐藤さーん!…ああもう、日本の佐藤人口って多いんじゃなかったの!」
「青葉くん! 一緒に走って下さい!」
「え」
ありとあらゆるものが揃ってるこの学園。だから普通の借り物では面白くない。そう考えた実行委員は生徒の方に目をつけた。
この借り物競争では、人を、しかも複数“借り者”しなければならないのだ。あ、青葉が走らされてる。あの人は確か「名前に色が入っている人×3」だったな。
実行委員は名簿を見ながらお題を考えるので、まず間違いなく借りることが出来る。ただし、該当者が休んでしまったり応答してくれなかったりすると大変厳しい。
かく言う俺も、見事に厳しい状況だ。
「名字が『なにぬねの』で始まる人を揃えろって、5人は多すぎるだろ!」
奇跡的に沼澤くん、根本くんは見つかった。「の」も、拓水こと野々村拓水でばっちりだ。
しかし、「な」と「に」がどうしても見つからない。「な」なんて中田とか中村とかいくらでもいそうなのに、そんなに借り出されたくないか。
そうこうしているうちにパンと音がした。痺れを切らした実行委員側が次のレーンをスタートさせたらしい。うろつき回る人たちで溢れ返り、校庭は大パニックだ。
気を取り直してもう1度叫ぼうとした時だった。
「ちょっと」
「え」
後ろから手を掴んできたのは並越先輩だった。
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