027 =====

 俺は並越先輩のことを知らなすぎる。知ったから何かと言われたらどうしようもないが、知りたいと思ったのは事実だった。ライバルだからではなく、純粋にそう思ったのだ。
 だって、俺に向けられるのは刺すような鋭い目ばかりだったから。


「これ、先輩が描いた絵ですか?」
「ああ、受験まで1年はあるからな。まずは普通に部活をやりながら感覚を取り戻していくつもりなんだとさ」
「……あれ? この感じ、どこかで見たことがあるような」


 置き去りにされたその油絵は、まだ未完成ではあったが綺麗な夏の海が描かれていた。俺も好きな雰囲気の絵だ。これもまた、俺の知らない並越先輩の一面と言えるのかもしれない。

 しかし、見たことがあると感じるというのはどういうことだろうか。
 俺が美術部に入部した時、先輩は留学中だったはずだ。それなら、もっと前に見たのだろうか。作品が部室に残っていたとか? 並越先輩なら、コンクールや展覧会に出展していてもおかしくはない。もちろん、俺の勘違いという線もある。

 必死に記憶をたどる俺を見て、榊原先生は小さく笑った。


「絵のことになると必死だよな、お前は」
「だって、このへんまで出かかってるんですよ。なんかもやもやして」
「あー…そーゆうのって、忘れた頃にふっと思い出すよな」


 結局俺は絵のことを思い出せないまま、久しぶりの部活を油絵を描きながら過ごしたのだった。

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