026 =====

「…本当、ムカつく」


 並越先輩は、そう一言呟いて美術室を出ていってしまった。


「並越はひねくれてるからなあ」
「榊原先生は並越先輩のことよく知ってるんですか?」
「ああ、並越も元美術部員だからな。留学前までは結構話したりもしてたんだ」


 留学に行くということで、部をやめたらしい。しかも、留学から戻ってきてすぐに生徒会に入ったため美術部に復帰することはなかった。
 榊原先生としては、また話せて嬉しいのかもしれない。


「それで、ひねくれてるっていうのは?」
「並越にはよく出来た兄がいるんだよ。俺もよく知ってるが……あれは正しく天才だな」
「天、才…」
「並越のところが芸術系統で優れた家系だっていうのは聞いたか? 並越兄は、その血が濃すぎるほどに濃いんだよ……並越は、幼い頃から天才の兄と比べられながら育ったって聞いている」


 出来すぎる兄がいるというのはどういう気分なのだろうか。俺には兄弟がいないから分からないけど、春原さんたちを見ていると比べるとか比べないとかとは縁がなさそうだ。
 並越先輩は違ったのだろうか。

「『半年間留学して高校の勉強が疎かになったから』、並越はそう言って2年生をもう1度やってる。留学は卒業単位に含まれるから必要ないのにな」
「じゃあ、並越先輩が2年生な理由って…」
「これは俺の推測だが、卒業を遅らせたかったんだと思う。並越は、自分の進む道を探してる最中なんだろう」

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