025 =====
「あれ、何か用?」
思えば、こうして美術室に来るのは少し久しぶりだった。つい先日まで榊原先生からのメールを待ちながらそわそわしていたことを、浮かれていてすっかり忘れていたのだ。
メールが来ないということは、つまりは彼がいるということだ。
「おう、木之下。なんか久しぶりだな」
「榊原先生、入部届け出しに来ました。それから、並越先輩」
「何?」
「俺、頑張ることにしましたから」
宣戦布告。この前のお返しだ。
本当は、まだ怖い。春原さんたちに応援してもらって、新にも「よかったな」って言ってもらえて、それでもまだ怖い。だって、勝てるか分からない相手に立ち向かうのはとても勇気のいることだから。
でも、勝てるか分からないというのは、負けるかも分からないということ。やってみなければ分からない。
「勝手に頑張れば? 僕は僕でやるだけだし」
「それです」
「え?」
「榊原先生は並越先輩だけの先生じゃないですよね。俺の先生であって、美術部の顧問でもあって、何より絳河学園の先生なんです」
「……さっきから何が言いたいの?」
「俺にも、教わる権利があるってことです」
だから、まずは同じ場所に立つところから始めようじゃないか。
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