016 =====

 「空いてる時間が出来たらメールするから」と、榊原先生からアドレスを受け取った。
 あれからもう1週間がたとうとしている。先生は「もう1人は忙しいから頻繁に時間がとれるだろう」って言っていたけど、現実はそう甘くなかったということだ。

 俺は美術室に行くこともなく、毎日をそわそわ過ごしていた。家では絵を描くこともあったけど、春原さんの家で油絵なんて出来る気がしなかったし、まず気になって仕方がなかった。

 そんなある日、榊原先生から初のメールが届いた。


「悪いな。もっと時間とれると思ってたんだが」
「いいんです。先生も、忙しいのに俺まで教わっちゃって……」


 今日も、あまり時間はとれないらしい。だから、俺だけでも練習出来るように先生は計画を立ててくれたというのだ。
 絳河大学の実技試験はデッサン。出された3、4つのものを与えられた時間の中で表現するのだ。デッサン用のレプリカの林檎を持ってきながら、先生は笑う。


「お前は抽象画ばっかり描いてるからな、基礎からやってもいいかもしれない」
「え、そこからですか?」
「自信あるならもっと先から始める」
「いえ、基礎からでお願いします」

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