011 =====

「で、俺に相談しに来たのか」
「だって、美術って言ったら榊原先生くらいしか……」
「…まぁ、いつもおいしく頂いてるからなぁ」


 弁当のことを言っているのは分かるが、それがなくても協力して欲しかった。だって、俺としては担任よりも頼れると思っているわけで……ジッと見つめると、榊原先生は肩をすくめた。


「今回は、全面的に協力ってのが難しいかもしれない」
「え」
「先約がいるんだよ」


 先約、つまり絳河大学の推薦枠を狙うライバルがいるということ。
 まだ相談の段階なのに、まさかその相談の理由にぶつかることになろうとは。俺はドキドキしながら言葉の続きを待った。


「でも、俺個人としてはお前のことを贔屓したい」
「先生……」
「だから、時間に空きがある時は面倒見てやるよ」
「! あ、ありがとうございます…ッ」


 まずは部活復帰だな。そう言って先生は用紙を取りに行った。

 父さんにも春原さんたちにも相談せず、俺だけで決めてしまった。でも、こればっかりは仕方ない。決意したんだから、引き返したくない。
 ただ、1つだけ疑問が残る。榊原先生はいい先生だけど、美術ですごい成績を残しているわけではない。つまり、失礼だが普通なのだ。そんな先生に、この学園に通う生徒が指導を頼むのだろうか。

 俺は知らなかったんだ。そこに、あの人の意図があるということを。

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