005 =====

 授業が終わった。秋良さんに参考書を返すと、俺の頭をポンポンと撫でて行ってしまった。慌てて「ありがとうございました!」と叫んだけれど、聞こえただろうか。


「さて、俺らも行くか」
「行くって?」
「授業が面白かったのは何よりだけど、本命を忘れるなよ」


 呆れたように言うハルさんは、別の校舎へと移動していった。俺もそのあとを追う。
 たどり着いたのは似たような部屋が並んだところで、その1つにハルさんは躊躇うことなく入っていった。恐る恐る覗いて見ると、馴染みのある匂いがした。


「油絵の匂い…」
「そりゃあ、美術サークルだからな」


 高校の部活とはまた違った空気。絵の具の匂いは同じだけど、もっとレベルの高いもののような気がする。それを表すかのように、広くはない部屋にはいくつもの作品が詰まっている。
 絵だけではない。彫刻とか粘土とか、針金なんかもある。レベルだけじゃない、幅も違う。みんな好きに色々なことをやってるんだ。


「りんご」
「え」
「目輝かせすぎ。反応がすごく分かりやすい」
「だ、だって!」


 しばらく触れてない美術がすぐ目の前にあるのに、興奮しないわけがない。

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