035 =====

 美術部は、男子校だからなのか美術が選択科目だからなのか、あまり人気がない。いつもこじんまりとした場所にブースを構え、数点の絵を飾っている。それは今回も同じだった。
 描き方は様々だ。油絵が多いが、水彩画やアクリルのデザイン画なんかも並んでいて……絵の具の匂いになんだか懐かしくなった。


「あれ?」
「どうかした?」
「名前。りんごって……書いて、ある」
「え…ッ」


 鴇矢くんの指摘で見ると、それは確かに俺の名前だった。当たり前だが、美術部に木之下りんごは2人もいない。

 飾られた絵は、俺が春休みに描いていたもの。つまり、春原さん宅にお邪魔することになる前に仕上げた作品だった。
 しかし、飾る許可などしていない。

 絵をジッと見ていると、誰かが寄ってくる気配がした。


「あー…見つかったか」
「榊原先生!」
「前日に絵が足らないってなってな、ちょうどお前の作品が転がってきたから飾らせてもらったんだ」
「絵は勝手に転がったりしません!」
「でも、日の目を浴びるのはいいことだろ?」


 榊原先生の視線の先には俺の絵がある。
 油絵の具で描いた抽象画。ある時に見た夢の情景を表現したくて、様々な色を重ねて重ねて描いた絵だ。もちろん、覚えてる。描きながら思ったことも、出来上がった時の感動も、タイトルも。全部だ。


「タイトル、これで合ってるよな?」


 そういえば。これが完成した時、先生も横にいたんだっけ。なんだかひどく昔のことのように思いながら、俺は絵を描いていた時の気持ちを思い出していた。

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