029 =====
黙っている俺を見かねてか、ハルさんはパンフレットを置いて帰っていった。実は例の3人も一緒らしく、せっかくなので久々の母校を堪能していくらしい。
「決まってないなら、見学だけでも来いよ。りんごの描く絵が見てみたい」
去り際に、ハルさんはそう言った。ポストカードを渡した時も同じ気持ちだったのだろう。
でも、俺は行く気になれなかった。今でさえ授業料の高さにひいひい言っているのに、大学なんてなおさらだ。このご時世、大学は出なきゃやってられないとは思う。でも、それが絳河である必要はないんだ。
「新は…」
「ん?」
「新は、何かあるの? したいこと、とか」
「そうだなぁ……具体的にはまだあんまり。でも、行きたい大学はある。そこに、気になる学部があるんだよ」
「そうなんだ」
「焦ることはないさ。でもさ、候補に入れるくらいはいいんじゃないか?」
どうして、どうして新は俺のほしい言葉が分かるんだろう。
嬉しくて、でもそれをストレートに伝えられなくて。俺はその場のノリと勢いに任せて抱きついた。「新ぁ───ッ」と叫ぶのも忘れずに。新はその馬鹿げた青春ごっこにも付き合ってくれた。本当に、出来た友人だよまったく。
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