022 =====
声にハッとして振り向けば、そこには予想した通りの人がいた。
「美術対決は必要ないだろ、もう結果は出たんだから」
「そうかもな。でも、俺はりんごの敵をとるって約束したから」
そう言ってハルさんが出したのは、海の絵だった。
「まだ制限時間までは余裕があるが、俺は描き終わった。だから少し早いけど勝負といこうか」
自信満々の笑みを浮かべるハルさんの後ろから、慌てて絵を担いでくる鴇矢くんが見えた。
でも、そんなの目に入らなかった。ハルさんの絵は、それほどまでに俺の心を奪っていたのだから。
油絵の具では時間に制限のあるこの勝負には向かない。だから乾きやすいアクリルを使用をした、油絵のような作品だった。でも、そんなの本当にどうでもよくて。俺はただ絵に釘付けだった。
「分かってないなー、鴇矢はオレら兄弟の中でも芸術に秀でてるんだ! 負けるわけないだろ?」
「そうかもな。でも、」
「?」
「りんごはそうは思ってないみたいだぜ?」
鶲やハルさんの会話は耳に入ってこない。
「りんご」
「! …ハルさん」
「敵、とれたよな」
「はい…!」
ハルさんの言葉も、こんな素敵な作品にめぐり会えたことも、俺には嬉しいことばかりだった。
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