021 =====

 体育対決は予想以上にあっさりと決着した。

 鶲と冬雪さん、どちらも走るスピードは同じくらいで、でも反射の差で冬雪さんの方がリードしていた。ところが、フラッグ手前で冬雪さんのスピードが落ちた、ように見えた。
 俺の見間違いかもしれない。でも、冬雪さんはわざと負けたかのように思えてならなかった。

 そしてそれは、間違いではなかったらしい。


「…なんで、あんなことしたの?」
「だって、必死だったんスよ。あいつ」
「でも、だからって冬雪が負ける理由にはならない」
「そうッスね……でも、なんだか圧倒されちゃって」


 喜ぶ鶲やそれを迎える春原さんたちを見ながら、冬雪さんはそう話していた。その答えを聞いて星夏さんは納得したのか、苦笑を溢しながら肩をすくめていた。


「でも、負けちゃった」
「うん」
「秋良に怒られるよ」
「覚悟の上ッス」


 眉を八の字にして笑う冬雪さん。
 そんな彼に話しかけようとしたその時、突然手を引かれた。


「…先輩」
「すでに3対1、俺らの勝ちだ」


 顔を上げれば春原さんたちが待っている。
 俺を雇っている人たち、俺の戻らなきゃならない場所。それは分かってる、けど。


「あの、待っ…ッ」
「帰るにはまだ早いんじゃねぇの?」

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