020 =====
俺がぼんやりとしているうちに、体育対決の準備も進められていた。
どうやら体育ではビーチフラッグをやるらしく、旗が砂山に立ててある。
「りんご」
「! …深鶴先輩」
「すでに2対1。美術対決やる前に、俺らの勝利が決まると思うぜ?」
「…そう、かもしれませんね」
先輩が話しかけてきても、俺はいつも通りの対応が出来なかった。
あの屈辱の対決と、そのあとの胸が高鳴るような出来事。それらのせいか、先輩の顔をまともに見ることが出来なかったのだ。代わりに視線は別のところを向いていたから、それが余計にいけなかったかもしれない。
俺の反応が気に入らなかったのか、先輩は春原さんたちの方へと戻っていった。
正直、今はその方が助かる。だって、どうしたらいいのか分からないから。
「りーんごッ」
「……鶲?」
「オレのこと、応援してほしい」
「え、だって今は敵で…」
「そうだけど、オレはりんごに応援されたい」
俺はしばらく考えたあと、無邪気に見つめてくる鶲に笑いかけた。
「頑張れ」とかは言わなかった。色々口走りそうだったから。でも代わりに、鶲と手を合わせた。
頑張ってきたらハイタッチしてやるから。だから、今はこれだけで。
思いが通じたのか、鶲はニッと笑って駆けていった。
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