018 =====
「りんご」
「…ハルさん」
落ち込む俺に声をかけてくれたのはハルさんだった。
負けるハズのない勝負で、あんな結果になってしまった。そのことが申し訳なくて、俺は顔を上げられなかった。
「勝敗は気にすんなよ。どうせ秋良だけだから、怒るの」
「でも、」
「それにあれはフェアじゃない……なんて、あいつらに雇われてるお前にそんなこと言っちゃ駄目だよな」
茶化すような言葉。でもそれは、全然嫌じゃなくて、むしろ心地いいくらいだった。
なんだろう、この感覚。知ってるような気がする。
「…ん、少しは元気出たな」
「え」
「じゃあ、次は俺の出番だから。ちょっと行ってくるよー」
横に座っていたハルさんが「よっこいしょ」と声をあげて立ち上がる。年寄りくさいと思ったが、わざと言ったような気がしてならなかった。
それにしても。どうやら、俺がショックを受けているうちに残りの競技が決まったらしい。
「…で、ハルさんは何を?」
「ん? 美術」
ニッコリ笑うハルさんがカッコよく感じたのは、きっと美術という言葉につられたからだ。
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