023 =====
「杏先輩を離して下さい、先輩は関係ない!」
「はい、少し黙ってねー」
「だから!」
「もう少しだから」
俺に覆い被さっているのは1人。しかしその1人の行動や言動に違和感を感じるのに、そう時間はかからなかった。
まず、まったく触る気配がない。そして結ばれた縄を弛めてくれている、気がする。
「あなたは…」
誰なんですか、そう聞こうとした時だった。
扉が開き、日が入る。俺は眩しさに目を瞑ったので、何があったかは分からなかった。しかし、完全に解けた縄をその辺に放ったその人の一言で、俺は再び顔を上げた。
「鷹人!」
「え…」
彼の声で皆が一斉に驚きの声をあげそちらを見る。
光に慣れてきた目に入ってきた姿は、ここにいるハズのない鷹人さんのものだった。
「これはいけないね、処分は免れない状況だ」
「な、なんで前会長がこんなところに…!?」
「知るか! どうすんだよ」
「と、とりあえず……逃げろ!」
走り出した彼らを、鷹人さんは止めなかった。外も何やら騒がしいところを見ると、逃げ場はなかったらしい。
あまりに突然すぎる出来事に唖然とする俺に、鷹人さんは優しく微笑んだ。「無事でよかった」と囁いて。
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