013 =====
「なんで、天王寺様が…」
「あ? …なんだ、的場じゃないか」
的場、というのは杏先輩の名字だ。同じ3年生だからか、会長は先輩を知っているらしい。噂では、全校生徒の顔と名前を覚えているって聞いたけど。
俺の位置からじゃ会長は見えない。前にはひどく怯えた杏先輩がいるだけ。
でも、声だけで分かる。今の会長は、怖い。
「下がれ的場。親衛隊、しかもトップの座にいるお前なら分かるだろ?」
「……はい、失礼しました」
杏先輩は大きく頭を下げると、俺と会長の横を足早に通り過ぎていった。
「…ッぐ」
「白りんご、久しぶりだな」
「会長…」
「俺、お前にずっと会いたかったのになかなか見つけられなくてさ。もうすぐテストがあって、すぐに夏休みになる。そうしたら会えなくなるだろ? そうなる前に話したかった」
不意討ちで壁に押し付けられた背中が痛い。
やっと見えた会長の表情を見て、俺は後悔した。
あの保健室での件より以前にも会長とは学園内で会っているけど、こんなに恐ろしく感じたことなんてなかった。どちらかというとからかっている感じだったのに、それがどうして。
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