006 =====
それは、下駄箱に入っていた。汚れのない真っ白な封筒と、ただ一言「昼休みに校舎裏に来ること」とだけ書かれた便箋が。
俺は周りに誰もいないことを確認すると、急いで封筒を鞄にしまった。杏先輩に頼んだのは昨日。まだ伝わらないうちに親衛隊が実力行使に出たとしても、不思議はない。
だから呼び出しには応じようと思った。これで手紙を無視したら、俺のイメージは下がる一方。杏先輩の説得も聞き入れてもらえなくなる。
しかし、それを誰かに知られたくはなかった。
「りんご! 一緒にお昼食べよーッ」
気がついたら昼休みだった。
かなり長い間ぼんやりとしていたらしく、転入生の騒がしい声で我に返ったのだ。いつもなら、誘いを断り真っ直ぐ美術室に向かうところ。それなのに、今日に限ってそれが出来なかった。それは、俺が無意識に呼び出しを拒んでるということなのだろうか。
「柚流、そんなヤツほっといていいよ。どうせ今日もどっか行くんだろ?」
「陽! そんな言い方ないだろ!」
「……行くぞ」
「ちょ、凪! 待てよ!」
今日は、俺より先に転入生たちの方が先に出ていった。
何も知らないくせに。そう思ってしまうのは仕方のないことかもしれないけど、仕方がないで済ませたくはない。
「……行くか」
席を立った俺をじっと見つめている人がいることに、俺は全く気がつかなかった。
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