019 =====
俺は今の状況にドキドキするばかりで、もう顔を上げることも出来なかった。だから、先輩のため息が聞こえた時ものすごくビクッとしてしまったんだ。
何を言われるかが、怖くて。
「あんまり浮気してると拗ねるぞ」
「う、浮気って…」
「間違ってないだろ?」
「……、先輩が拗ねるんですか?」
「んなわけないだろ、鶲とか拗ねそうじゃん」
おずおずと目線を戻せば苦笑する先輩が見えた。気を遣わせてしまったらしい。
「俺だったら拗ねる前に犯す」
と、思ったのだが。どうやら勘違いだったようだ。
でも、なぜだか落ち着いた。先輩のおかげと言うと癪だけど、いつもの自分に戻れたような。そんな、不思議な気持ちになった。
「深鶴先輩、ありがとうございましたッ」
隙を見て俺は、先輩の腕から抜け出した。そして部屋を出る前に振り返り、ただお礼を述べた。
最近青葉のことばかりだったから、自分でも気づかぬうちに気を張っていたらしい。それを先輩が解いてくれた。分かっていたかどうかは分からないけど、それでも感謝の気持ちは伝えたかったんだ。
「…ずりぃ」
言い逃げした俺は、先輩がどんな顔をしていたかなんて知るよしもなかった。
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